God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
2月5日~公示……グッジョブ!
2月5日。週明け、月曜日。
昼休みに入ってすぐ、中庭に立候補者が貼り出された。
予定では、明日の朝礼で候補者は全校生徒に晒され、まずは10日後14日の公開演説に向けて、前哨戦が繰り広げられる。
演説後、さらに3日かけてダメ出し、16日が投票締め切り。
そして、結果発表。
その3日後は模擬試験だ。勉強に集中できると思えば、無関係も、まんざらでもない。
3組でメシをまったり掻っこむと、パソコンを前に肘をつく。
一本指打法。間違わず、どこまで入力が可能か?という限界に挑戦していた所、眠気が急に襲ってきて、指と言うより瞼に限界が来た。パチパチと絶え間なく音はしても、実際、何を入力しているのか自分でも分かっていない。
クラスは半数が学食か別のどこかに消えて、教室に残った輩はまばらである。
机に突っ伏して寝ている男子が、1人,2人,3人……数えているうちに、これは羊より効果的に眠れそうな予感がしてきた。
自分もその群れに加わるべくパソコンを閉じる。今のうちに眼を閉じて……そうでもしないと5時間目の世界史は拷問になるだろう。
パソコンに覆い被さるように突っ伏すと、昨日の事をぼんやり思い出した。
コンビニで時間を潰していたノリと合流。
劇的(?)な和解の後、マックに場所を移して雑談に興じた。
「黒川は、これから永田も入れて隣町で合コンだって」
明日が公示日だというのに。まー、単に公表されるだけの事。当事者でもなく、全く興味の無い者には、どうでもいい事で。(こら、永田は当事者だろ。)
そこで、俺が重森(なんか)に協力している事情をノリに話して聞かせた。
ちゃんと話していなかった事も詫びて、それで結局、右川を説得できなかったと……言ってる側から凹んでくる。その様子があまりにも哀れと受け取られたのか、ノリにバーガー&アイス(冬なのに)をオゴってもらう始末だ。
「俺が右川を殺ろうとしたとか、マジで信じてないよね?」
一応、確認。
あいつがどんだけ味付けして語ったとも知れない。女子の盛りは脅威である。
ノリがケラケラと笑ってくれる事に安堵しながら、アイスを一気食いした。
「すっかり信じた訳じゃないけど。右川さんが迷惑と感じたなら、謝った方がいいんじゃないかと思ってさ。そうでもしないと、右川さん、立候補してくれないぞぉーって」
結局、立候補してくれない。
俺のせいだ。
理由は……これはノリにも言えない。俺は墓場まで持って行く。
そこから話は明日からの部活の事となり、「3年も居なくなって毎日早く帰れそうだから、アイツと会うんだよ」なんて、彼女のむっちゃんとも順調のようで……うらやましい。
「俺も、そろそろ見つけようかな」
幸せそうなノリ、そしてマックでテーブルを囲む2ショットを見せつけられているうちに、ふと思った。焦って探すのは止めたと言いながら、その舌の根も乾かないうちに、である。
〝欲求不満の生徒会オタク〟
うっかり思い出した。あれは言い得て妙だな。
「すぐ見つかるよ。洋士は背も高いし」
ノリは意味不明のエールの後、「本当は右川さんと仲良くして欲しかったけど。残念だなぁ」と、まるでいつかの浅枝のように未練を漂わせた。
「洋士はさ、マジで誰も居ないの?ちょっと好いと思う女子とか」
「居ねーよ」
そんな会話の後、ノリとはいつものように(いや久しぶり)駅で別れた。
これから、今までと何ら変わりない日常が戻ってくる、んだ、なと。
……23,24,28……。
……32,33、8……。
……82、8……。
クラスメートの背中をループで数えている内に本気で眠りに落ちそうになる。
そこに重森が来た。来てしまった。
スマホ画面で時間を見ると、うとうとし始めてから5分も経っていない。
「何か用?」
仕方なく聞いてやると、「早く行って来いよ」と、お得意の漠然とした命令が飛んだ。よくよく聞いてみると、公示の候補者を確認、ついでに、「俺の事も宣伝して来いよ」とか言ってやがる。
「寒い」
そう言ったきり。
うずくまって全く動こうとしない俺の態度に重森は驚いた様子で、「は?」と目を見開いた。
「眠いんだって」
もう演技も何もどうでもいいような気がする。
今日から楽しい部活に、ちょっと気は早いが受験勉強に、ひょっとしたら可愛い彼女に、それぞれ集中できるじゃないかと、頭の切り替えが早くも進んでいるのだ。
「燃え尽きてんじゃねーよ。これからが勝負だろ。一気に永田を潰すからな」
俺は、再び机に突っ伏した。天井あたりに向けて親指を突き出すと、
「いいねーーー」
正直って、いいな。
この豹変ぶりに、重森は開いた口が塞がらないだろう。愉快愉快♪
誰かの大声で目を覚まし、身体を起こして中庭を眺めていると、意外にも、掲示板前は思った以上に人だかりが出来ていた。
予想通り見たまんまの展開だし、寒さも手伝って、わざわざ見に行く生徒は少ないと思っていたので、それは意外でもある。
去年は永田さんが確実と思われていた選挙だった。公示日にバスケ部員が掲示板前に集まって、早くも「おめでとう!」と大騒ぎだった事を思い出す。
今思えばあれは、刷り込みという演出だったような。
あれも松下さんの作戦かな。
そういう縁の下の力持ち的な役割を、俺は期待されていたのか、な?
だがそれも、表舞台に上がろうという輩が居てこそ、の話だ。
〝何もしない〟
あぁ、あの占いの通りになっていく……。
何もしなくていいと言われる事が、これだけ退屈でツマんないとは。
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