God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
「次の執行部、一緒にやる?」
「ね、そんなウンコみたいな顔で生きてて、恥ずかしくない?」
制服姿に黄色いマフラーをグルグル巻き。
まるで妖しい輩に重森が脅されているように見える。
「カネ森くんのためならタダ働きでも何でもやって、あ・げ・る♪みたいな、そういう女子、1人も居ないの?そんなんで会長とかやれんの?歴代生徒会長ってさ、みんな、ちゃーんと彼女居たんだって。歴代記録更新ストップ♪カネ森ウンコが歴史に名前を刻む時が来たぁ~っ!Don’t miss it!」
「うるせーよっ!」
重森は用紙の束を床に投げつけた。
俺には叫ぶ元気も無かった。
ゼイゼイ息が上がっている。真冬に汗だく。ずっと走って。
生徒会室も売店もオタク友達のクラスも、右川は何処にもいなかった。水場も、屈辱の溜め池も一応見て、クタクタで3組に戻ってきたそこに……居た。
よりにもよって1番考えられない場所に、ちゃっかりと。
さっそく重森とやりあっている。
そこで昼休みの終わり、5時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「お……おいっ」
教室を出ようとする右川の腕を掴み損ね、そこで俺は力尽き、となりの机にもたれ掛かりながら、その机もろとも床に倒れ、そこに上から誰かのノートが落下、問題集も落下、スマホも落下、順番にパタパタと頭を叩かれ、最後はシャーペンが垂直に頭皮を直撃。
阿木から聞いた一部始終が、意識の果てにこぼれ落ちる。
聞けば。
土曜日、あの後。
俺が帰った後、それは申込み締切、5分前の事。
「ここだけの秘密にしよっか」
阿木は浅枝と目線を繋いで頷き合い、「私達、一緒にやれるのも、もう最後かもしれない。だったら、ちょっと冒険してみない?男子ばっかりで騒いで決まるのも、なんか悔しいから」
ダメもとで。
それで浅枝と2人、勝手に右川の名前を記入していたと言う。
その時、当の右川がひょっこりやってきた。
受付用紙、見覚えの無い字、自分の名前を見て取ると、
「それっていいの?永田会長に言いつけちゃうゾ」
見れば右川の手にも申し込み用紙が1枚握られている。
2人は驚いて、そして大喜びで、「本人直筆なら、それがあれば十分よ」と、阿木はダブる申し込み用紙を捨てようとした。
「あ、いいのいいの。それとこれも一緒に出してね。よろくし♪」
右川が差し出した申し込みには……俺の名前が。
阿木は、「右川さん、これは」と、呆然。
「ダメですよ!そんなことできませんよ」と、浅枝も大慌て。
「だぁーっ!2人共、今あたしの名前でやろうとしたじゃーん」
どちらも譲らず、押し合い、頷き合い、そして……1,2、トライ。
「お、おまえなーっ!?」
右川はマフラーに顔半分を埋め、両手をブレザーのポケットに入れ、逃げるように廊下を行く。逃がすか!
追い掛けた先、いつもの、あの水場までやってきた。
若干、嫌な予感がヒシヒシと漂う。
ここに来ると、ロクでもない事しか起きない。
やっとのことで追い付いてマフラーの端を掴むと、「ぐぅえっ!」と、奇声を発して、右川は動きを止めた。
「誰かっ!殺されるっ!首絞められたっ!現行犯逮捕!右京さーん!」
5時間目が始まってすぐのバタバタと慌ただしい校舎に向かって、右川は罵声を響かせる。その声に気付いて顔を覗かせる輩は、誰1人として居ない。
5時間目、3組は世界史だ。5組はどうだか知らないが、この際、そんな事どうでもいいだろ。
開口一番、
「勝手な事すんな!」
原則。本人が書いて持ってくる!
そんな選挙の鉄則を事細かに説教してやっているというのに、右川は面倒くさそうに余所見を始めた。
体育でたまたま通りがかった1年生に向かって、
「ね~見て~、黄色いチューリップ♪」
黄色いマフラーを頭上で結わえて、見ようによってはチューリップ(?)のように、あつらえて見せる。「あ、コビトさんだ。可愛い!」と、後輩は陽気に手を振った。右川は、ウケた♪ウケた♪と大喜び。
俺はその黄色いチューリップを、容赦なく上から叩き潰した。
「聞いてんのか。コラ」
一瞬、妙な間が空いた。
と思ったら、右川はおもむろに水道の蛇口をひねる。水を浴びせられる脅威にギョッと怯えて、俺は反射的にその場から身体を引いた。
それきり水も何も散らして来ない。単に、ムダにそこら辺を濡らしただけ。
右川は、ケケケ♪と笑って、蛇口をまたキュッと閉めて……意味、分かんねーし。
不意に、右川はポケットからマスクを取り出して、付けた。
何も喋らないという意思表示のつもりか。
「これ見よがしに……何だそれ。気が悪い」
言いたくもなるだろ。そのマスクにはトボけた熊のイラストが描かれてある。
「これで、あんたのアタリマエ菌は伝染らないゾーっと」
そのクマにどれだけ殺菌能力が有るのか知らないが、チューリップ頭にマスクで顔は8割がた隠れているというのに、それでもこの破壊力。
甘い顔を見せてたまるか。俺は絶対に笑わないぞ。
奥歯を噛み締める。5秒間、目を閉じて耐えた。……話を戻そう。
「おまえ分かってんのか。これはルール違反なんだぞ」
「うっさいな、もう。会長やりたくないなら、今から辞めりゃいいじゃん」
「公示されてんだぞ!いまさら辞めるなんてツルンと言えるか。おまえじゃあるまいし」
「え?何それ。後から取り消しって出来ないの?」
「それは……出来ない事も無いけど」
俺は……取り消せない。そんな気がした。
「あ?何黙ってんの?あんた辞める気無いって事?しっかりやる気?」
右川は、俺の本心を疑って探るように、チューリップ・マスク+眼力で、威嚇する。
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