God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
やってみろ。
来るなら来い。
受けて立つ。
何を言われても、周囲に幻滅されるような事なんて、今まで何1つ……あった。あったな確か。チビには2つも。
まさか右川自身が、ここでそれらを晒して自爆するとも思えないが。
その時、右川は突然、俺の胸の中に飛び込んできた。
一瞬、何が起きたのか理解に苦しむ。
いつかのような甘い匂いと微妙な体温が、腹の辺りにまとわりついて。
ち、近寄るな……ではなかったか?
「沢村くんっ!お願いっ!」
あの日の事は許して……そんな幻が聞こえそうな程、切なく迫る。
もう怒ってないからいいよ……と俺は許す。そんな妄想すら飛び込む勢いだ。
「300円、返して!」
「……か、金?」
「300円でいいからぁ。返してぇ~。あうあうあう~」
甘ったるい声を、右川がそこら中に振りまいた。
その声に廊下側の生徒が一斉に反応すると、窓から次々と顔を覗かせる。
校舎のド真ん中で、元カレと熱い抱擁……これを周囲が放っとく筈がない。
「おいおいおい。ヨリ戻ってんぞ!」
「つーか、こじれてんぞ!炎上だ!」
「公開バカップル!」
右川が強く抱き付いてくる。俺の脳みそは理解が追いつかない。
次から次へとやってくる野次馬の冷やかしに、こっちは赤くなればいいのか、青ざめればいいのか。
「返してぇ~、300円~」
「お、おまえに金なんか借りた覚えねぇよ!」
貸した事なら、もう山ほど。
黒川はニヤリと笑うと、「返してやれよ!沢村ァ!」と周りに聞えよがし。「元カレの潔い散り際、見せろや!」と大声で触れ回った。
「こいつは、泥棒だ!」
泥棒……その言葉の破壊力に、周りの反応が引き気味に。
「いや、借りてないから!」
「返してぇ~、返してぇ~、返してぇぇぇぇ~」
右川は辺り構わず、俺にしがみついた。
5組の教室から桂木が慌てて飛び出してきて、
「ちょ、ちょっと、右川にいくら借りてんの!?」
「いや、借りてないって!」
「あうあうあう~。本当は680円だよぉ~」
「何だその具体的な金額は!」
「ね、右川亭でオゴって貰ったとかじゃない?よく思い出して」
「いや、だから!俺は借りてないんだから」
金のやり取りがあったと、何故それが前提で話が進むのか。
「ひっ、酷い。あうあうあう」
そこで右川はクルリと回り、今度は俺ではなく、周囲に向けて、
「アタリマエに返せ~。ちゃんとちゃんとちゃんと返せ~」
俺は説得も攻撃も諦め、これ以上人が集まって大騒ぎ(大笑い)になる前に、桂木と一緒になって逃げ出した。
680円。
具体的すぎる。借りたとしては1番ありそうな、ホントらしい金額だ。
あれ?マジで借りてた?
そういや、いつかの右川亭で……騙されかけて、どうする。
相変わらず、あいつは、悪巧みに長けている。
今一番、顔も見たくない筈の俺に抱き付くという暴挙に出てまで、その目的を達成しようとする。その変わり身の早さったらない。
「数秒でお祭り状態。右川って、こっちが思う以上に、敵に回したら怖いかもしれないね」
逃げ出した先、はぁはぁと呼吸を整えながら、桂木は呟いた。
突飛な演出。
爆発的な引力。
まさしく、右川劇場。
そんな台詞を聞きながら、桂木ほどのクオリティの持ち主でも、右川なんかに一目置くのかと。いつかの重森の悔しさが、ここに来て自分にも降りかかって来るように感じた。
「右川ってさ。このまま、何もやらない気でいるのかなぁ」
それは、右川の蜂起を、どこか期待しているように聞こえる。
俺は憤慨した。
「出ないと言いつつ申し込む。結局フザけて何もしない。あいつはそういうヤツだよ」
そんな俺の言い方が、あまりに辛辣だと感じたのか、
「1度訊こうと思ってたんだけど、右川と何かあったの?」
いつか訊かれるとは思っていた。
というか、今まで訊かれずに来た事が不自然でもあった。
「何も無ぇよ。ちょっと色々……言い合ったぐらいで」
「本当に付き合っては、ないよね?」
「あるワケねーだろ」
何を真に受けてんだ。桂木ミノリともあろう君が。
出馬を断られた。クソミソに罵られた。パソコンを盗まれた。
右川の狼藉、言える限りを言い尽くし、「結果、俺は右川に、ヤラれ放題」と散々な状況を桂木に明かした。
「何でそこまで、こじれちゃったかな」
桂木は頭を抱えて、
「沢村の協力で右川が出たら、向かう所、敵無し。面白そう。激ヤバって期待してたのに。勿体ないよ」
俺を協力者という立場に降格させてまで、主役に右川を思い描く。
今現在、立候補している本人が目の前に居るというのに……こういう時、思うのだ。敵に回したら怖いと、俺は思われていない。
何となくムッときて、それきり桂木とは目も合わさず、「これから、松下さんと会う約束があるから」と、その場で別れた。
桂木に、どこか疑わしげに見送られてしまうが、これはその場凌ぎの言い逃れでも何でもなく、本当に呼び出されていたので何もやましい所なんか無い。
(無い!)
来るなら来い。
受けて立つ。
何を言われても、周囲に幻滅されるような事なんて、今まで何1つ……あった。あったな確か。チビには2つも。
まさか右川自身が、ここでそれらを晒して自爆するとも思えないが。
その時、右川は突然、俺の胸の中に飛び込んできた。
一瞬、何が起きたのか理解に苦しむ。
いつかのような甘い匂いと微妙な体温が、腹の辺りにまとわりついて。
ち、近寄るな……ではなかったか?
「沢村くんっ!お願いっ!」
あの日の事は許して……そんな幻が聞こえそうな程、切なく迫る。
もう怒ってないからいいよ……と俺は許す。そんな妄想すら飛び込む勢いだ。
「300円、返して!」
「……か、金?」
「300円でいいからぁ。返してぇ~。あうあうあう~」
甘ったるい声を、右川がそこら中に振りまいた。
その声に廊下側の生徒が一斉に反応すると、窓から次々と顔を覗かせる。
校舎のド真ん中で、元カレと熱い抱擁……これを周囲が放っとく筈がない。
「おいおいおい。ヨリ戻ってんぞ!」
「つーか、こじれてんぞ!炎上だ!」
「公開バカップル!」
右川が強く抱き付いてくる。俺の脳みそは理解が追いつかない。
次から次へとやってくる野次馬の冷やかしに、こっちは赤くなればいいのか、青ざめればいいのか。
「返してぇ~、300円~」
「お、おまえに金なんか借りた覚えねぇよ!」
貸した事なら、もう山ほど。
黒川はニヤリと笑うと、「返してやれよ!沢村ァ!」と周りに聞えよがし。「元カレの潔い散り際、見せろや!」と大声で触れ回った。
「こいつは、泥棒だ!」
泥棒……その言葉の破壊力に、周りの反応が引き気味に。
「いや、借りてないから!」
「返してぇ~、返してぇ~、返してぇぇぇぇ~」
右川は辺り構わず、俺にしがみついた。
5組の教室から桂木が慌てて飛び出してきて、
「ちょ、ちょっと、右川にいくら借りてんの!?」
「いや、借りてないって!」
「あうあうあう~。本当は680円だよぉ~」
「何だその具体的な金額は!」
「ね、右川亭でオゴって貰ったとかじゃない?よく思い出して」
「いや、だから!俺は借りてないんだから」
金のやり取りがあったと、何故それが前提で話が進むのか。
「ひっ、酷い。あうあうあう」
そこで右川はクルリと回り、今度は俺ではなく、周囲に向けて、
「アタリマエに返せ~。ちゃんとちゃんとちゃんと返せ~」
俺は説得も攻撃も諦め、これ以上人が集まって大騒ぎ(大笑い)になる前に、桂木と一緒になって逃げ出した。
680円。
具体的すぎる。借りたとしては1番ありそうな、ホントらしい金額だ。
あれ?マジで借りてた?
そういや、いつかの右川亭で……騙されかけて、どうする。
相変わらず、あいつは、悪巧みに長けている。
今一番、顔も見たくない筈の俺に抱き付くという暴挙に出てまで、その目的を達成しようとする。その変わり身の早さったらない。
「数秒でお祭り状態。右川って、こっちが思う以上に、敵に回したら怖いかもしれないね」
逃げ出した先、はぁはぁと呼吸を整えながら、桂木は呟いた。
突飛な演出。
爆発的な引力。
まさしく、右川劇場。
そんな台詞を聞きながら、桂木ほどのクオリティの持ち主でも、右川なんかに一目置くのかと。いつかの重森の悔しさが、ここに来て自分にも降りかかって来るように感じた。
「右川ってさ。このまま、何もやらない気でいるのかなぁ」
それは、右川の蜂起を、どこか期待しているように聞こえる。
俺は憤慨した。
「出ないと言いつつ申し込む。結局フザけて何もしない。あいつはそういうヤツだよ」
そんな俺の言い方が、あまりに辛辣だと感じたのか、
「1度訊こうと思ってたんだけど、右川と何かあったの?」
いつか訊かれるとは思っていた。
というか、今まで訊かれずに来た事が不自然でもあった。
「何も無ぇよ。ちょっと色々……言い合ったぐらいで」
「本当に付き合っては、ないよね?」
「あるワケねーだろ」
何を真に受けてんだ。桂木ミノリともあろう君が。
出馬を断られた。クソミソに罵られた。パソコンを盗まれた。
右川の狼藉、言える限りを言い尽くし、「結果、俺は右川に、ヤラれ放題」と散々な状況を桂木に明かした。
「何でそこまで、こじれちゃったかな」
桂木は頭を抱えて、
「沢村の協力で右川が出たら、向かう所、敵無し。面白そう。激ヤバって期待してたのに。勿体ないよ」
俺を協力者という立場に降格させてまで、主役に右川を思い描く。
今現在、立候補している本人が目の前に居るというのに……こういう時、思うのだ。敵に回したら怖いと、俺は思われていない。
何となくムッときて、それきり桂木とは目も合わさず、「これから、松下さんと会う約束があるから」と、その場で別れた。
桂木に、どこか疑わしげに見送られてしまうが、これはその場凌ぎの言い逃れでも何でもなく、本当に呼び出されていたので何もやましい所なんか無い。
(無い!)