God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
「沢村は、絶対そう言うと思った」
「オレは、アタリマエに美味い!に、一票」
「あたしは、悪くねーよ、に、一票」
「普通に美味い!で、あたしの勝ち~」と、その女子はチョコを2つ、まとめて口に頬張った。
どれを取ってもツマんない答えだな。
こう言う時、思うのだ。俺のツマらなさは市民権を得ている。
藤谷が、「失敗したので良かったら、これも食べてよ」と、出してきたトリュフ・チョコをツマんでいると、そこに桐生がやって来て、「こうなったら明日はゴディバでも配るか!」と、派手に暴走を始めた。
「明日、桐生が貰ったチョコを、まんまスルーで周りに投げちゃえば」
「そんな事したら、貰ったオレの立場が危うくなるじゃん」
「そん時だけ被りモノすれば?沢村のお面とか」
「作るの難しいゾ。こんな、普通でアタリマエ顔は」
「ははははは」
悪かったな。
「らす」
と、いつの間にか、桂木が横からやってきて、トリュフ・チョコをつまむ。
「あぁ。美味しい」
そこで、「この時期。配るならキットカットだよ」と、リーズナブルに参戦。
「3年が喜びそうじゃん。おまえら気が利く~ってさ」
桂木よ、おまえもか。
この所、いつも何度も、この類の雑談で異様に盛り上がる。
チョコに始まり、「こうなったら歌えば?」「そこまで言うなら踊れば?」「プロモーション作る?」「イメージキャラクターが無い」「とにかく回れ」
その都度、テーマは色々変わるのだが、有権者の心をキャッチするために、いかなるものを投入すべきかと……単なる雑談とは、分かっているけれど。
だからという訳じゃないけれど。
1度は、きっぱりと言っておきたい。
「何度も言うけどさ。そういうのは……あんまり。俺的には王道っていうか。正統っていうか。そうじゃないと、まともなヤツらに相手にしてもらえないってうか。支持してもらえないっていうか」
結果、きっぱりには、程遠かった。
結果、ドン引き。
約1分間、チョコを齧る音しか聞こえなくなった。
また盛りあがりに水を差してしまった、と。
要領を得ない物の言い方も、本当にコイツでいいのかと応援団に不安を与えてしまった、と。
こう言う時、思うのだ。
俺は地味で目立たない裏方向き。決して御輿に乗せられるタイプではない。
今更だけど。
そこで突然、「アタリマエ体操、始まるよぉ~!」と桂木が声を張り上げる。
ここにきてソレを蒸し返すのかと、一瞬、ムッとしたのだが、すぐに、アタリマエ♪アタリマエ♪と、煽られた誰かがフザけて踊り出し、そして全てが笑いに変わった。
桂木と目が合った。しょうがないよ、そう言ってるように見える。
乃木坂、欅坂、TWICE……音楽に乗って、肩をポンポンと叩かれているうちに……これは恐らく、慰めのつもりだな。思うに、フォローしてくれたらしい。
こう言う時、思うのだ。桂木ミノリ。その正体は、〝人たらし〟。
まぁ、いいか。
俺は最後まで自分の軸を見失わず、少し離れた所でそれを見ていれば。
不意に、楽しめと言ってくれた永田さんの気持ちに並んだ気がした。
こういう気持ちを、分かりやすく言葉に出来たら……いいのに。
大騒ぎの中、「ハイ」「はい」「は~い」と、みんなは桂木から、チョコではなく、いつものアメを貰った。
「麦チョコバラ撒く?」
「ライスシャワーみたいに?なんかそれ、可愛くない?」
「面倒くさ。てゆうか、貧乏クサいよ」
「やっぱチロルだよ」
「え、またそこから?」
「もういいって」
今度は心地よく受け止めながら、しょうがねぇなとばかりに、アメとチョコを同時に味わった。
「演説、はかどってる?」
不意に桂木に訊かれて、仲間の喧騒を横目に、「いまいち、しっくり来ない」と正直に胸内を明かすと、「放課後って、空いてる?例文とか持ってるから。あたしも一緒に考えてあげるよ」
「おー、ミノリ様」
フザけて拝むと、「もお。やめて。それ」とか言いながらも、本人はまんざらでもない様子だ。
「で、おまえは具体的に、どういうあたりがしっくり来ねーの?」
突如、ゴールにドリブルシュートを決める勢いで、桐生が飛び込んできた。
聞いていたな。ずっと。そして、割り込むタイミングを窺っていたな。
俺は率直に、
「ずばり、ツマんない」
桂木が、口元から黄色いアメ&チョコを一斉に吹き散らした。
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