God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
そこに、こう言う時に限って、右川カズミがやってくる。
首に巻いた黒いマフラーの端をクルクルと回しながら、
「あれあれ?あったし、お邪魔ぁ~?」
「何だよ」
近寄るな、ではなかったのか。
「ワタシ、スグ失礼シマス」と、ワザとらしい片言で前置きすると、「ノリくん、部活に居ないんだけど、どうしちゃったかなぁ」と、俺の居ないあさっての方向に向いて訊ねた。
桂木も居る事だし、そういうオトナの判断で乗り切る事に決めたようだが、不愉快、極まりない。
「単なる早退だろ」
右川は、片耳を澄まして、
「なーんか、くそツマんないツッコミ、空から来ましたけどっ」
当然ムッときた。だが、ここでスイッチが入ったら、お終い。何とか耐える。
「ノリに何の用だよ」
「明日の事で、ちょっと相談したくてさ」
と、俺ではなく桂木だけに向いて、右川は答えて……え?
明日の事?
「え?え?どうしたの?突然」と、さすがに桂木も驚いている。
「突然じゃないよ。これでもちゃーんと準備してるもんね」
マジで?
あれ以来、全くノーマークだった。密かに用意していたのか。
そして敵前で堂々と本気勝負宣言とは。これも突飛な演出の1つなのか。
「つまり、ノリくんに手伝ってもらってるって事?」
俺も、それを訊きたい。ノリからは聞いた事がなかった。
「まぁね♪」
見れば、右川の手には便箋のような、小さな紙が握られている。
「それ、もしかして明日の?」と、桂木が訊くと、「そだね♪」と、右川は2つ折りのそれを開いて、「ううーん」と考え込んだ。
「こういう肝心な時に、いい言葉が浮かばなくて。これだと何のサプライズも無いんだよね。面白くない。やっぱ文章にはドラマが無いとっ」
公開演説。
一体、どんな事を書いているんだろう。
この様子では、フザけた事をブチ撒けるという可能性も捨てきれない気がした。ノリでは心許ない。てゆうか、とんでもない事を書いていたら、生徒会までもが恥を掻く。
「ちょっと、それ見せろよ」
「はぁ?」
「ここで俺が添削してやる」
「あんた無理だよ。彼女いないんだから」
「関係ねーだろ、それは」
そればっかり。いつもいつも、しつこい。
だが右川は、「関係あるよっ」と、目を剥いて訴えた。
はいはいはい!と桂木は、俺と右川の間に割って入ると、「じゃ、あたしが見てあげる」と、オドけて自身を指さす。だが右川は、「だめぇ。ミノリも彼氏居ないから」と胸の辺り(だろうけど腹と区別がつかない)、指で×を作った。
「もー。関係ないでしょ、それは」
「関係あるよっ」
どうしてだか、そこは頑固に言い張る。
俺は、いつか重森に向けられた右川の台詞を思い出した。
〝彼女も居ないような男子に、女子が票入れる?〟
そう言えば……俺も、重森も、永田も……3人共、彼女は居ない。
「それを言ったら、おまえだって彼氏いないだろが」
「だーかーらー、彼女のいるノリくんに相談するんだよ」
「ノリに比べたら、そういう事は俺の方が経験積んでる。貸せ!」
便箋のような紙を強引にかっぱらうと、それがあまりに乱暴だと右川は感じたのか、「あんた一体、どこまで天狗!?ドン引きだよっ」と、異様なくらい軽蔑の目を向けた。
「どれどれ」と、桂木も興味津々、一緒になって便箋を覗きこむ。
その便箋を開くと、たった3行。
いつもお弁当、ありがと。
美味しく頂いてます♪
マフラー、大事にするね。
「何だこれ」
「だーかーらー、バレンタインのメッセージだよ」
「バ……」
バカじゃねーの。
喉元まで、出掛かった。そう、大バカだ。チビも俺も(桂木も)。
呆気に取られた桂木は、「そっちかぁ」と軽く失望して、椅子にもたれた。
「で?去年、そんなに貰った訳ですか。そういう事は経験を積んでるとかいう沢村候補は」
すぐさま立ち直った桂木は矛先を俺に向け、勘違いをエサに笑うけど。
「あのさ」
桂木だって勘違いしただろ。桂木は、「まーまーまー」と曖昧に誤魔化した。
「チョコもあるんだよ」と、右川は箱を開いて、桂木に1粒渡す。
「あたしが食べちゃっていいの?」
「これは試食用で」と言われて、桂木は納得して口に運んだ。
「美味しい。上手く出来てるね」
「甘い?」
「うん。程良く」
ううー……と、右川は考え込んだ。
「むっちゃんに教えてもらって一緒に作ったんだよね。アキちゃん甘いのそんなに得意じゃないから。明日渡す前に、ノリくんにも試食してもらおうと思ったんだけど。甘いの苦手なノリくんでも、むっちゃんのチョコだけは食べれるんだって♪」
右川とノリと、むっちゃん。3人はいつの間に。
つい、こないだまで俺はノリと一緒に居なかった。最近は、ノリは彼女の事で一杯、俺は選挙で一杯、詳しい日常は知らされていない。
「トリュフだとお酒でしょ?ラム酒とか高価いじゃん。かといってさ、せっかくのバレンタイン、板チョコ溶かしただけで濁したくないしね。あ、明日の晩ゴハンはアキちゃんとお出かけ。久しぶりの外食だよぉ~へへへ♪」
明日の演説ではなく、山下さんとのバレンタイン。
彼女でも何でもないのに、それで頭が一杯。
つい、
「そんな事より、明日の演説。ちゃんと考えてんのかよ」
敵が恥を掻かないように……何で対立候補の俺が心配しなくてはならないのか。
自分にムカつく。
「ハイハイハイ。ちゃんとちゃんとちゃんと」と、右川は便箋をヒラヒラ振って聞き流すと、やっぱり桂木だけに向かって、
「ラッピングは100均だけどね。クリームホワイトの包装紙に、リボンはやっぱ赤でしょ。ベストマーッチ!」
何かをパクってポーズを決めた。
選挙の事なんか、何も考えていない。これから始める様子も無い。
バレンタイン一色。
首に巻いた黒いマフラーの端をクルクルと回しながら、
「あれあれ?あったし、お邪魔ぁ~?」
「何だよ」
近寄るな、ではなかったのか。
「ワタシ、スグ失礼シマス」と、ワザとらしい片言で前置きすると、「ノリくん、部活に居ないんだけど、どうしちゃったかなぁ」と、俺の居ないあさっての方向に向いて訊ねた。
桂木も居る事だし、そういうオトナの判断で乗り切る事に決めたようだが、不愉快、極まりない。
「単なる早退だろ」
右川は、片耳を澄まして、
「なーんか、くそツマんないツッコミ、空から来ましたけどっ」
当然ムッときた。だが、ここでスイッチが入ったら、お終い。何とか耐える。
「ノリに何の用だよ」
「明日の事で、ちょっと相談したくてさ」
と、俺ではなく桂木だけに向いて、右川は答えて……え?
明日の事?
「え?え?どうしたの?突然」と、さすがに桂木も驚いている。
「突然じゃないよ。これでもちゃーんと準備してるもんね」
マジで?
あれ以来、全くノーマークだった。密かに用意していたのか。
そして敵前で堂々と本気勝負宣言とは。これも突飛な演出の1つなのか。
「つまり、ノリくんに手伝ってもらってるって事?」
俺も、それを訊きたい。ノリからは聞いた事がなかった。
「まぁね♪」
見れば、右川の手には便箋のような、小さな紙が握られている。
「それ、もしかして明日の?」と、桂木が訊くと、「そだね♪」と、右川は2つ折りのそれを開いて、「ううーん」と考え込んだ。
「こういう肝心な時に、いい言葉が浮かばなくて。これだと何のサプライズも無いんだよね。面白くない。やっぱ文章にはドラマが無いとっ」
公開演説。
一体、どんな事を書いているんだろう。
この様子では、フザけた事をブチ撒けるという可能性も捨てきれない気がした。ノリでは心許ない。てゆうか、とんでもない事を書いていたら、生徒会までもが恥を掻く。
「ちょっと、それ見せろよ」
「はぁ?」
「ここで俺が添削してやる」
「あんた無理だよ。彼女いないんだから」
「関係ねーだろ、それは」
そればっかり。いつもいつも、しつこい。
だが右川は、「関係あるよっ」と、目を剥いて訴えた。
はいはいはい!と桂木は、俺と右川の間に割って入ると、「じゃ、あたしが見てあげる」と、オドけて自身を指さす。だが右川は、「だめぇ。ミノリも彼氏居ないから」と胸の辺り(だろうけど腹と区別がつかない)、指で×を作った。
「もー。関係ないでしょ、それは」
「関係あるよっ」
どうしてだか、そこは頑固に言い張る。
俺は、いつか重森に向けられた右川の台詞を思い出した。
〝彼女も居ないような男子に、女子が票入れる?〟
そう言えば……俺も、重森も、永田も……3人共、彼女は居ない。
「それを言ったら、おまえだって彼氏いないだろが」
「だーかーらー、彼女のいるノリくんに相談するんだよ」
「ノリに比べたら、そういう事は俺の方が経験積んでる。貸せ!」
便箋のような紙を強引にかっぱらうと、それがあまりに乱暴だと右川は感じたのか、「あんた一体、どこまで天狗!?ドン引きだよっ」と、異様なくらい軽蔑の目を向けた。
「どれどれ」と、桂木も興味津々、一緒になって便箋を覗きこむ。
その便箋を開くと、たった3行。
いつもお弁当、ありがと。
美味しく頂いてます♪
マフラー、大事にするね。
「何だこれ」
「だーかーらー、バレンタインのメッセージだよ」
「バ……」
バカじゃねーの。
喉元まで、出掛かった。そう、大バカだ。チビも俺も(桂木も)。
呆気に取られた桂木は、「そっちかぁ」と軽く失望して、椅子にもたれた。
「で?去年、そんなに貰った訳ですか。そういう事は経験を積んでるとかいう沢村候補は」
すぐさま立ち直った桂木は矛先を俺に向け、勘違いをエサに笑うけど。
「あのさ」
桂木だって勘違いしただろ。桂木は、「まーまーまー」と曖昧に誤魔化した。
「チョコもあるんだよ」と、右川は箱を開いて、桂木に1粒渡す。
「あたしが食べちゃっていいの?」
「これは試食用で」と言われて、桂木は納得して口に運んだ。
「美味しい。上手く出来てるね」
「甘い?」
「うん。程良く」
ううー……と、右川は考え込んだ。
「むっちゃんに教えてもらって一緒に作ったんだよね。アキちゃん甘いのそんなに得意じゃないから。明日渡す前に、ノリくんにも試食してもらおうと思ったんだけど。甘いの苦手なノリくんでも、むっちゃんのチョコだけは食べれるんだって♪」
右川とノリと、むっちゃん。3人はいつの間に。
つい、こないだまで俺はノリと一緒に居なかった。最近は、ノリは彼女の事で一杯、俺は選挙で一杯、詳しい日常は知らされていない。
「トリュフだとお酒でしょ?ラム酒とか高価いじゃん。かといってさ、せっかくのバレンタイン、板チョコ溶かしただけで濁したくないしね。あ、明日の晩ゴハンはアキちゃんとお出かけ。久しぶりの外食だよぉ~へへへ♪」
明日の演説ではなく、山下さんとのバレンタイン。
彼女でも何でもないのに、それで頭が一杯。
つい、
「そんな事より、明日の演説。ちゃんと考えてんのかよ」
敵が恥を掻かないように……何で対立候補の俺が心配しなくてはならないのか。
自分にムカつく。
「ハイハイハイ。ちゃんとちゃんとちゃんと」と、右川は便箋をヒラヒラ振って聞き流すと、やっぱり桂木だけに向かって、
「ラッピングは100均だけどね。クリームホワイトの包装紙に、リボンはやっぱ赤でしょ。ベストマーッチ!」
何かをパクってポーズを決めた。
選挙の事なんか、何も考えていない。これから始める様子も無い。
バレンタイン一色。