God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
桂木は、そんな右川を眺めて、会話に心地よく頷いて……だが、右川が嬉しそうにチョコを紙袋に納めるその一瞬、見えない所で、桂木は小さく溜め息をついた。
今も、右川を惜しんでいる。
ここまで無気力を見せつけられているというのに、それでも、この期待感。
俺にスイッチが入った、なう。
自分でハッキリとそう感じた。
「怠けモノ」
俺は最大の悪意を込めた。
「そんなナメ腐った態度でいいのかよ。立候補しといて何のアクションも起こさない。そんなのルール違反だ。推薦した阿木や浅枝を馬鹿にしてる。友達をコケにして、山下さんだって、どんな美味いチョコ貰ったって納得しねーよ。チクられなきゃいいとか、どっかで思ってんだろうけど。最低だな。おまえは本物のポンコツだ」
攻撃は最大の防御とはよく言ったものだと思う。
攻める、ではない。責める、のだ。
右川が口を挟む事を一切、許さない。悪いのはオマエだと、責めて責めて。
やがて、
「あぁー……萎えー……」
右川は、ぼんやりと、「萎え萎え萎えー……」と、目の焦点をそこら中にフワフワと漂わせた。
「あんたと話してると、こっちの感性が破壊されそう。マジで下がる。くそツマんないワ」
「じゃ、帰るね♪」と、桂木だけに愛想良く言い残すと、右川は、くるりと背中を向けた。
俺は手元の便箋を乱暴に丸めて、その背中に投げ付ける。
右川はそれを拾って、クシャクシャになった便箋を1度は開き、切なそうに目を閉じて。ちょっとやり過ぎたかな……と、思った矢先の事だ。
「ゴミ!バイ菌!悪魔!うんこ!カビ!電気代!消費税!」
やたら詳しくメッタ討ちにされた。
こっちも猛烈に怒りが吹き上げて、それなら机を投げてやる!
……いや、桂木の手前、俺はあくまでも冷静に、机をドン!と叩くに留めた。
右川が廊下を走り去る足音。
それきり、教室は何の音もしなくなった。
まるでチャンネルを切り替えるように、1枚の紙がぱらりと床に落ちる。
「沢村候補、まるで人が違うみたい」
桂木は紙を拾うついでに、俺とは微妙に距離を取りながら遠ざかった。
しばらく外を眺めていたと思ったら、「あたし、ちょっとコピーしてくるね」と、教室を出て行く。沢村には冷静になる時間が必要、という判断か。
背中で聞いた桂木の捨てゼリフが、頭を回る。
〝まるで、右川がスイッチなんだね〟
それは否定しない。
てゆうか、あいつが自らスイッチ化して、無意味に俺を煽るのだ。
あいつが悪い。あいつが。
桂木は、なかなか戻って来なかった。
気持ちの切り替えに、よっぽど時間が掛かると思われているのか。
様子を見に行こうと立ち上がったその時、窓の外から、女子の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
帰る!と、ついさっき言ったばかりの右川が中庭に居て、山下さんに貰った(らしい)黒いマフラーを躍らせながら、女子と雑談。
〝マフラー、ありがと〟そんな文句をぼんやりと思い出した。
山下さんから……それをプレゼントとは呼びたくない気がする。ねだって拝み倒して、無理繰り奪ったに違いないのだ。
そんな事より何より、右川が無邪気に笑い掛けている女子、1名。
桂木ミノリ。
右川の肩をポンポンと無邪気に叩きながら、笑顔で雑談に応じている。
まるで、さっきの事など、何でも無かったかのように。
やがて、周囲を窺ってしきりに頭を動かし始めた。
俺は見つからないように咄嗟に身を隠し、窓枠から顔だけを出して様子を窺う。
桂木は右川の袖口を引いて、近くの植え込みあたりに誘い込むと、やっぱり辺りを窺いながら、コソコソと何やら耳打ち。ニコニコと。お互いの肩をポンポンポン。そこでアメを貰ってチビは大喜び。わお♪とか言ってるんだろ。
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