God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
「実は、バスケは関係なくて。あたし個人で、会長に立候補したかった。ホントはね」
意外、いや、桂木の才覚を思うと、それも可能生としてありうる。
そこまで考えた所で、「あっ」と思わず声に出た。そう言う事か。
あの応援メンバー。演説の例文。どれも俺のため、永田のため、ではない。
桂木自身のための応援メンバーであり、演説であったと……この時初めて気が付いた。だからメンツにはしっかり桐生が居て、演説は永田には似つかわしくない美しいフレーズが並ぶ。
「でもさ、永田会長は右川を公認するって言うし、バカは黒川と一緒になって5組も押さえるし。これじゃクラスからも応援取れそうにないと思って、立候補を諦めて。そしたら、急に沢村が出る事になってるから驚いて。どうせ立候補できないなら……1番可能性のある人に付くのが早いと思った」
「……」
「沢村は真面目だし、いいヤツだから。会長になっても付いていける。絶対イケるよ!」
まさしく、会長に立候補しようとする輩だと感じた。プライドをくすぐる説得力に長けている。その本心を探るように見つめていると、「って、ホメすぎると逆に嘘くさいかな?あはは」と、はにかんだ笑顔で先回り、牽制する。
〝桂木さんは頭いいから。おまえも楽しいだろ〟
永田さんの言葉を思い出した。
その楽しさは、扱いを間違えると、逆にこっちが遊ばれてしまう。
桂木ではなく、その背後に。
「桂木は、吹奏楽のやつらって、どう思う?」
「大っ嫌い!重森なんて誰が入れるんだろう」
吹奏楽部に対する対抗心をうっかり、思いっきり露わにして、そこで桂木はアッという顔で口を塞いだ。
「……予選、通過」
「え、これで?」
「俺もそう思うから」
俺が少し笑うと、桂木も笑う。
一瞬だけ、空気が和んだ。
もし誰かの回し者なら、吹奏楽の事は、この選挙には関係ないと一応ここではウソ吹くかな?もちろん、これだけで信用するという事でもない。疑いが晴れたというにはまだ早い。
永田だけに期待を掛けられず、リスク分散。たとえ永田が落選しても、桂木が噛んでいれば生徒会に潜り込めると企む一派とか……疑えばキリがない。
それに、ひっかかる事はまだ、ある。
「右川と、随分仲良いじゃん」
「だって同じクラスだもん」
「とかって、しれっと言うなよ。1番怪しいだろ」
「何が?」
本気で分からない様子に見えた。これも、そういう輩の隠蔽能力なのかと、探るように下から覗き込む。桂木は、わずかに動揺して見せると、
「特別、友達って訳じゃないけど。別に嫌いじゃないよ。そりゃクラスで色々と面倒掛けられるけどさ」
「へー」
俺が納得していないと感じた桂木は徐々にその態度を軟化させて、というか、もう誤魔化せないと観念したのか、
「しょうがないから言うけど、右川には、ついこないだまで……」
言いにくそうに、恐る恐る下から様子を窺いながら、「怒んない?」と来る。
「今言えば」と、その先を促した。
さぁ、一体どんな爆弾が飛び出すか。
「もし、右川が立候補して当選したら、その時はあたしを3役に入れて、って……さっきみたいに頼んであって」
桂木はペロッと舌を出した。
ギョッとする。
「二股じゃないか!」
これだからオンナは怖い。
そんな素振りも何も全く見せず、感じさせず、卒業まで隠したまま。
……おお、怖っ。
こちらの困惑にはお構いなし。桂木は、「だーってさ!」と無邪気に俺の肩をポンポン叩く。
「最初の頃、永田会長と沢村がタッグを組んで右川を推薦するって聞いて。そんなの、もう絶対じゃん?お願いしといて損は無いでしょ。だけど、どう見てもやる気なさそう。それで急きょ沢村側に付いて」
ずばり手のひら返し!と、桂木はオドけて見せた。
悪いけど笑えない。(スベってるぞ)
「でもこれって、なんつーか、裏切りな訳だから。右川って、あーやってヘラヘラして見せてるけど、本当は怒ってるんじゃないかなーって。でも、さっき思い切って謝ってみたら平気だった。〝いいんじゃない?沢村は頭いいから、ミノリに合うよ〟って」
「あいつが、そんな事言うか」
俺の頭がいいとか、あんな最悪の言い争いをした後に。
桂木は1つ頷くと、「別に、もう何とも無い感じだったよ」
前にもあった。
俺と俺以外と、右川の物言いが全然違う。
どうしてこんなにも隔たりがあるんだろう。
「あたし去年まで……右川って、実は沢村のこと好きなんじゃないかって、疑ってた」
一応、訊いてやろう。「その根拠は」
「沢村に対する態度が、ちょっと変っていうか。意味も無く睨んだり、ワザと近寄って嫌味言ったり。それって、意識してるからする事でしょ?」
そういう複雑な反応になるのは、特別な理由があった訳だが。
当然、ここでは言えない。
「それって、俺だけ?」
「沢村と……よく考えたら、重森もだな」
今期最大にゾッとした。俺は、重森と同類なのか。
「重森が好きって事は無いだろ。どう見ても」
桂木は、「そうだよね」と笑って、「右川と同じクラスになって初めて、あー違うんだ、って分かったけど。ほら、あのお兄さん」
「右川亭の」
「そう。そのお兄さんから貰ったとかいう、あの黒いマフラー。クンクン嗅いで、ニターッと笑ってるよ。いつも肌身離さず、授業中も付けたまんま」
依存心、絶賛継続中か。
「黒いマフラーになっちゃって。あの黄色いパイナップルが見られないと思うと、ツマんなくてさ。世界史が、もう眠くて眠くて」
「チューリップらしいぞ。あれは」と、一応教えてやった。
先生の迷惑も顧みず、チビが黄色いマフラーをひらひらさせる構図がパッと浮かんで、思わず吹き出した。桂木も、それに釣られて笑い転げる。
桂木ミノリ、頼りになる、できるやつには違いないが。
「悪いけど」と、俺は改まる。
「俺は、3役にバスケと吹奏楽は絶対に入れない。理由はわかるだろ?」
「じゃバスケ辞める」
右川と違って、言ったら本当に辞めそうだな、こいつなら。
「そんな訳にいかないだろ」
「バスケ辞めて、バレー部に入ろうかな」
「またまた。バスケが好きなんだろ?」
「うん……ちょっとだけ、沢村が好きになったかも」
意外、いや、桂木の才覚を思うと、それも可能生としてありうる。
そこまで考えた所で、「あっ」と思わず声に出た。そう言う事か。
あの応援メンバー。演説の例文。どれも俺のため、永田のため、ではない。
桂木自身のための応援メンバーであり、演説であったと……この時初めて気が付いた。だからメンツにはしっかり桐生が居て、演説は永田には似つかわしくない美しいフレーズが並ぶ。
「でもさ、永田会長は右川を公認するって言うし、バカは黒川と一緒になって5組も押さえるし。これじゃクラスからも応援取れそうにないと思って、立候補を諦めて。そしたら、急に沢村が出る事になってるから驚いて。どうせ立候補できないなら……1番可能性のある人に付くのが早いと思った」
「……」
「沢村は真面目だし、いいヤツだから。会長になっても付いていける。絶対イケるよ!」
まさしく、会長に立候補しようとする輩だと感じた。プライドをくすぐる説得力に長けている。その本心を探るように見つめていると、「って、ホメすぎると逆に嘘くさいかな?あはは」と、はにかんだ笑顔で先回り、牽制する。
〝桂木さんは頭いいから。おまえも楽しいだろ〟
永田さんの言葉を思い出した。
その楽しさは、扱いを間違えると、逆にこっちが遊ばれてしまう。
桂木ではなく、その背後に。
「桂木は、吹奏楽のやつらって、どう思う?」
「大っ嫌い!重森なんて誰が入れるんだろう」
吹奏楽部に対する対抗心をうっかり、思いっきり露わにして、そこで桂木はアッという顔で口を塞いだ。
「……予選、通過」
「え、これで?」
「俺もそう思うから」
俺が少し笑うと、桂木も笑う。
一瞬だけ、空気が和んだ。
もし誰かの回し者なら、吹奏楽の事は、この選挙には関係ないと一応ここではウソ吹くかな?もちろん、これだけで信用するという事でもない。疑いが晴れたというにはまだ早い。
永田だけに期待を掛けられず、リスク分散。たとえ永田が落選しても、桂木が噛んでいれば生徒会に潜り込めると企む一派とか……疑えばキリがない。
それに、ひっかかる事はまだ、ある。
「右川と、随分仲良いじゃん」
「だって同じクラスだもん」
「とかって、しれっと言うなよ。1番怪しいだろ」
「何が?」
本気で分からない様子に見えた。これも、そういう輩の隠蔽能力なのかと、探るように下から覗き込む。桂木は、わずかに動揺して見せると、
「特別、友達って訳じゃないけど。別に嫌いじゃないよ。そりゃクラスで色々と面倒掛けられるけどさ」
「へー」
俺が納得していないと感じた桂木は徐々にその態度を軟化させて、というか、もう誤魔化せないと観念したのか、
「しょうがないから言うけど、右川には、ついこないだまで……」
言いにくそうに、恐る恐る下から様子を窺いながら、「怒んない?」と来る。
「今言えば」と、その先を促した。
さぁ、一体どんな爆弾が飛び出すか。
「もし、右川が立候補して当選したら、その時はあたしを3役に入れて、って……さっきみたいに頼んであって」
桂木はペロッと舌を出した。
ギョッとする。
「二股じゃないか!」
これだからオンナは怖い。
そんな素振りも何も全く見せず、感じさせず、卒業まで隠したまま。
……おお、怖っ。
こちらの困惑にはお構いなし。桂木は、「だーってさ!」と無邪気に俺の肩をポンポン叩く。
「最初の頃、永田会長と沢村がタッグを組んで右川を推薦するって聞いて。そんなの、もう絶対じゃん?お願いしといて損は無いでしょ。だけど、どう見てもやる気なさそう。それで急きょ沢村側に付いて」
ずばり手のひら返し!と、桂木はオドけて見せた。
悪いけど笑えない。(スベってるぞ)
「でもこれって、なんつーか、裏切りな訳だから。右川って、あーやってヘラヘラして見せてるけど、本当は怒ってるんじゃないかなーって。でも、さっき思い切って謝ってみたら平気だった。〝いいんじゃない?沢村は頭いいから、ミノリに合うよ〟って」
「あいつが、そんな事言うか」
俺の頭がいいとか、あんな最悪の言い争いをした後に。
桂木は1つ頷くと、「別に、もう何とも無い感じだったよ」
前にもあった。
俺と俺以外と、右川の物言いが全然違う。
どうしてこんなにも隔たりがあるんだろう。
「あたし去年まで……右川って、実は沢村のこと好きなんじゃないかって、疑ってた」
一応、訊いてやろう。「その根拠は」
「沢村に対する態度が、ちょっと変っていうか。意味も無く睨んだり、ワザと近寄って嫌味言ったり。それって、意識してるからする事でしょ?」
そういう複雑な反応になるのは、特別な理由があった訳だが。
当然、ここでは言えない。
「それって、俺だけ?」
「沢村と……よく考えたら、重森もだな」
今期最大にゾッとした。俺は、重森と同類なのか。
「重森が好きって事は無いだろ。どう見ても」
桂木は、「そうだよね」と笑って、「右川と同じクラスになって初めて、あー違うんだ、って分かったけど。ほら、あのお兄さん」
「右川亭の」
「そう。そのお兄さんから貰ったとかいう、あの黒いマフラー。クンクン嗅いで、ニターッと笑ってるよ。いつも肌身離さず、授業中も付けたまんま」
依存心、絶賛継続中か。
「黒いマフラーになっちゃって。あの黄色いパイナップルが見られないと思うと、ツマんなくてさ。世界史が、もう眠くて眠くて」
「チューリップらしいぞ。あれは」と、一応教えてやった。
先生の迷惑も顧みず、チビが黄色いマフラーをひらひらさせる構図がパッと浮かんで、思わず吹き出した。桂木も、それに釣られて笑い転げる。
桂木ミノリ、頼りになる、できるやつには違いないが。
「悪いけど」と、俺は改まる。
「俺は、3役にバスケと吹奏楽は絶対に入れない。理由はわかるだろ?」
「じゃバスケ辞める」
右川と違って、言ったら本当に辞めそうだな、こいつなら。
「そんな訳にいかないだろ」
「バスケ辞めて、バレー部に入ろうかな」
「またまた。バスケが好きなんだろ?」
「うん……ちょっとだけ、沢村が好きになったかも」