God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
選管に呼ばれて、俺は桂木と藤谷の3人で朝礼に向かった。
校庭の喧騒が次第に大きくなる。壇上すぐ後ろに控えた俺を見て、バレー部の面々も、3組の色々も、手を振ってくれた。
やけに嬉しそうな(?)ノリが、無邪気な笑顔で合図をくれる。
今夜の標準装備は万全か?
突っ込みたい所だが、遠回し過ぎて、却って妬んでいると思われそうだ。
藤谷から渡された名前入りのたすきを斜めに掛けながら、「何泣きそうな体してるの?」またまた大きなお世話とも言うべきダメ出しを聞き流していたら、そこに5人の家来(?)を連れた重森がやってくる。
相手にしない。
そこに、永田会長を連れだって永田もやってきた。
俺は姿勢を正して、永田さんに深く一礼。
「おう」と、片手を上げて愛想良く返る。
何となく、緊張が和らぐ。重森より、永田弟より、この場の誰よりも、この緊張感を分かち合える人のような気がするから。
だが、吹奏楽部とバスケ部。2つが顔を突き合わせた、その瞬間、
「バスケは保護者同伴かよ」
重森ではない。その後ろに控える女子の声だった。
これが男子だったらバカが黙っていない。何だこのやろう!と乱闘は必至。
そこを女子に言わせる辺りが、重森はズルい。ズルいのだ。
すると、
「家来なんか、会長の俺1人で十分だよな」
遠回しな嫌味で永田会長までもが応戦してしまうとは。
俺は固唾を呑んだ。
喉の奥に残るチョコレートの苦みが膨らんで、それが2年間の色々と一緒になって込み上げる。
〝終わらせなくては〟
永田会長と笑顔で雑談している桂木を、そっと盗み見た。
ごめん。
やっぱり3役には加えてやれそうにない。
そこに右川が1人……と思ったら、盟友の松倉と一緒にのんびりやってくる。
「まったり来てんじゃねーよッ。チビデブ」と、永田。
「潰れ過ぎてチビは見えない。ブタは人間の視界能力を越える」と、重森。
こう言う時、思うのだ。敵に向かう時だけ、なにげに2人は同調するんだな。
永田&重森に集中砲火を喰らっても、松倉は元より、右川もお馴染みの黒いマフラーに口元を埋めて、クンクン……平然としている。
ここに来て、右川に向けて特に言及すべき事など、無い。
俺だって、別に、もう何とも。
ていうか、
「マフラー取れよ」
それには我慢が出来なくて、つい注意してしまった。
「いくら寒いからって、一応、公の場なんだから」
俺も永田も重森も、マフラーどころか手袋もコートも身に着けていない。
「そうだよ、右川。あたしが預かってあげるから」と、桂木が言うのも聞かず、
「ミノリにはマフラーに見えるかもしんないけど、これは右川の応援団♪」
唯我独尊。もう何を言ってもムダか。
桂木と顔を見合わせて、ため息をつく。永田さんも然り。
それでも、
「右川さん。演説、期待してるよ。頑張って」
永田さんは、最高の期待感を漂わせた。
右川も、「あー。まー。はい」と、曖昧ではあるが愛想良く応える。
重森は、「今さら何言ったって、それで何百の票が動く訳ねーだろ」と憎まれ口を叩いた。
そうかもしれない。だが、それだけを言うな、と腹では思う。
この演説は、票を得るためというより、これまでの感謝を伝えるための……俺は、そんな気がしている。
重森とは無言で睨み合った。
選挙管理委員会が投票ルールの説明を始めた。
〝今日から3日間、いつでも投票できます〟
名前を呼ばれて、俺は壇上に上がった。持ち時間は、5分と決まっている。
あんまりダラダラやると、「寒い」「鬱陶しい」「逝け」と苦情になる。
トップバッター。
短く、印象深く……『お……(うっかり、俺、と言い掛けた)』
レポート用紙1枚には、去年の演説からの引用とか、政治家の謳い文句とか、言葉は決まり切ったものが殆どで、新鮮味も無ければ、ヤッてくれた感も、無い。(無い。)
それでも、
『僕が責任を取るので。みんなには出来る限りたくさんの経験と感動を』
思いは込めた。
『好きなように、やりたい事に飛び込んで欲しいと思うし、受け入れてやるとは言ったが甘えるんじゃない!と、たまには喝も入れてやりたいし』
そこで思いがけず笑いが起こって、いつもツマんないとイジられ続けた事に、一矢報いたような気分になる。
喋っている一言一句を間違えないようにする事より、有権者の顔を眺める方に意識が飛んだ。
その都度、ポツポツと、自分を応援してくれた仲間の顔が飛び込んできて、何度も込み上げて。
校庭の喧騒が次第に大きくなる。壇上すぐ後ろに控えた俺を見て、バレー部の面々も、3組の色々も、手を振ってくれた。
やけに嬉しそうな(?)ノリが、無邪気な笑顔で合図をくれる。
今夜の標準装備は万全か?
突っ込みたい所だが、遠回し過ぎて、却って妬んでいると思われそうだ。
藤谷から渡された名前入りのたすきを斜めに掛けながら、「何泣きそうな体してるの?」またまた大きなお世話とも言うべきダメ出しを聞き流していたら、そこに5人の家来(?)を連れた重森がやってくる。
相手にしない。
そこに、永田会長を連れだって永田もやってきた。
俺は姿勢を正して、永田さんに深く一礼。
「おう」と、片手を上げて愛想良く返る。
何となく、緊張が和らぐ。重森より、永田弟より、この場の誰よりも、この緊張感を分かち合える人のような気がするから。
だが、吹奏楽部とバスケ部。2つが顔を突き合わせた、その瞬間、
「バスケは保護者同伴かよ」
重森ではない。その後ろに控える女子の声だった。
これが男子だったらバカが黙っていない。何だこのやろう!と乱闘は必至。
そこを女子に言わせる辺りが、重森はズルい。ズルいのだ。
すると、
「家来なんか、会長の俺1人で十分だよな」
遠回しな嫌味で永田会長までもが応戦してしまうとは。
俺は固唾を呑んだ。
喉の奥に残るチョコレートの苦みが膨らんで、それが2年間の色々と一緒になって込み上げる。
〝終わらせなくては〟
永田会長と笑顔で雑談している桂木を、そっと盗み見た。
ごめん。
やっぱり3役には加えてやれそうにない。
そこに右川が1人……と思ったら、盟友の松倉と一緒にのんびりやってくる。
「まったり来てんじゃねーよッ。チビデブ」と、永田。
「潰れ過ぎてチビは見えない。ブタは人間の視界能力を越える」と、重森。
こう言う時、思うのだ。敵に向かう時だけ、なにげに2人は同調するんだな。
永田&重森に集中砲火を喰らっても、松倉は元より、右川もお馴染みの黒いマフラーに口元を埋めて、クンクン……平然としている。
ここに来て、右川に向けて特に言及すべき事など、無い。
俺だって、別に、もう何とも。
ていうか、
「マフラー取れよ」
それには我慢が出来なくて、つい注意してしまった。
「いくら寒いからって、一応、公の場なんだから」
俺も永田も重森も、マフラーどころか手袋もコートも身に着けていない。
「そうだよ、右川。あたしが預かってあげるから」と、桂木が言うのも聞かず、
「ミノリにはマフラーに見えるかもしんないけど、これは右川の応援団♪」
唯我独尊。もう何を言ってもムダか。
桂木と顔を見合わせて、ため息をつく。永田さんも然り。
それでも、
「右川さん。演説、期待してるよ。頑張って」
永田さんは、最高の期待感を漂わせた。
右川も、「あー。まー。はい」と、曖昧ではあるが愛想良く応える。
重森は、「今さら何言ったって、それで何百の票が動く訳ねーだろ」と憎まれ口を叩いた。
そうかもしれない。だが、それだけを言うな、と腹では思う。
この演説は、票を得るためというより、これまでの感謝を伝えるための……俺は、そんな気がしている。
重森とは無言で睨み合った。
選挙管理委員会が投票ルールの説明を始めた。
〝今日から3日間、いつでも投票できます〟
名前を呼ばれて、俺は壇上に上がった。持ち時間は、5分と決まっている。
あんまりダラダラやると、「寒い」「鬱陶しい」「逝け」と苦情になる。
トップバッター。
短く、印象深く……『お……(うっかり、俺、と言い掛けた)』
レポート用紙1枚には、去年の演説からの引用とか、政治家の謳い文句とか、言葉は決まり切ったものが殆どで、新鮮味も無ければ、ヤッてくれた感も、無い。(無い。)
それでも、
『僕が責任を取るので。みんなには出来る限りたくさんの経験と感動を』
思いは込めた。
『好きなように、やりたい事に飛び込んで欲しいと思うし、受け入れてやるとは言ったが甘えるんじゃない!と、たまには喝も入れてやりたいし』
そこで思いがけず笑いが起こって、いつもツマんないとイジられ続けた事に、一矢報いたような気分になる。
喋っている一言一句を間違えないようにする事より、有権者の顔を眺める方に意識が飛んだ。
その都度、ポツポツと、自分を応援してくれた仲間の顔が飛び込んできて、何度も込み上げて。