God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
「俺、今日から右川さんの隣に座りたいんですけど」
「で、さっそくだけど」
重森は俺の隣に並んだ。ちょうどその時、「洋士、3度目の、あけおめ~」と後ろから無邪気にやって来たノリを、「おまえは邪魔だ。先に行け」と重森は追い払う。横目で威嚇する。
「ちょっと。何つーか。ごめん」と俺は、ノリを曖昧な笑顔で見送った。
新年早々、重森に使われる身分に落ちぶれるとは……溜め息1つ。
今は何を言っても無駄だろう。
「陣営は、3組を押さえようと思ってんだけど」
「3組?」
俺のクラス。
「そこが拠点って事?」
「そう」と、重森は頷いた。
吹奏楽部を支持母体に置く人間が、クラスを拠点にする。
それも、重森自身のクラスである1組じゃなくて、3組。
「毎年恒例の吹奏楽の部室にしないの?」
「わざわざ味方に寄せる必要あるか。どこに作ろうが、あいつらは勝手に、自動的に、俺側に付く」
そこで、「あのさ、ちょっとは考えろよ」と、重森は身を乗り出すと、
「2年3組はこの学校建物の中心。つまり、どこからも人が集まる。ナカチュウ軍団もわんさか遊びに来る場所だ。みんな、俺の陣営に一目置いて出て行くだろう。あのくそツブに見せ付けてやれよ。沢村を手放した、てめーの愚かさを知れ」
重森はドヤ顔。俺の驚いた顔を眺めて、一様の満足に納得している。
重森は、俺を脅すかと思えば、不意に気を遣う、庇う、なだめる、たまに持ち上げる。そのどれもが、右川に向かう怨恨&敵対心とセットで繰り出される。
こっちが持ち上げられるその度に、重森が右川に付けられた傷は、思った以上に深いと改めて気付くのだ。
そして、重森はいつか知るだろう。
右川は外部の事なんか元から眼中にない。男子は、どうでもいいゴミ。クズ。おまえは金だけが取り柄の〝カネ森〟だという事を。
……今さらを承知。
この取引に心底応じる気には、俺はどうしてもなれなかった。
だが、重森の爆発を最低限に抑えるには、ここはとりあえず機嫌を損ねないほうがいいと考え、俺は今だけ、重森の言いなりになる覚悟をしている。
いつかの、あの取引。
それは約束とも取れるから。そう簡単に裏返る事もできない。
今から思えば、最初からこれが目的で金を盗んだのかと疑える程、重森の頭の中には、その後の予定までしっかりあるようで。
第一弾、第二弾……重森は戦略を訥々と語り始める。
俺なんか居なくたって、どうにかやれそうなのに。
それを言えば俺だって、右川陣営について、色々と戦略を巡らせてあった。
拠点は、生徒会室横の作業部屋を利用しよう。あそこは通常、何かの委員会が会議や打ち合わせに使う場所として、行き交う生徒で引っ切りなしだ。
文化祭実行委員会がバタバタしていた事は記憶に新しい。
右川は座っているだけでいい。嫌でも顔が売れる。
どうせあいつはフラフラするから、肝心な所、結局は俺が全部対応する。
支持母体は、公認している生徒会。この上なく、強大。そこが中心となって陣営の役割を果たし、一般から応援を集めて選挙戦を展開する。
都合よく場所も人も押さえる事ができるのは、生徒会公認の強みだ。
こんな恵まれた環境で闘って負けるはずがない。
あいつには勿体ない程の輝かしいデビューが約束されているというのに。
思わず舌打ちが出た。そこを重森に軽く睨まれる。
慌てて、「あーはいはい。なるほどね」と、したり顔で頷いた。
重森の言う、3組を拠点にする根拠あたりを聞いていると、そういうやり方もあったのかと……困ったことに、重森は賢い。
永田とは違う。馬鹿じゃないから、余計に困る。
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