God bless you!~第7話「そのプリンと、チョコレート」・・・会長選挙
楽しんでやがる
投票率。
毎年、それは選挙の注目度とは反比例する。
「今年はバスケで決まりだろ」
あるいは、
「今度は吹奏楽の番か。凹むワ~」
決まり切って、それほど期待もされない予測結果には、演説直後、すでに投票率は8割を超える。校舎棟に入ると、既に投票箱が設置してあり、有権者は教室に戻るついでに投票を終えることも出来るのだ。
だが今回は……未だ〝ゼロ〟。
どうしたらいいか分からない。
その行く末を見てから決めたい。
プロセスを楽しみたい。
理由はそれぞれのようだが……そして、予想通りというべきか、2年3組は揺れ続けた。
朝礼の演説を終え、そこら中から揉みくちゃにされながらクラスに戻ってくる途中、ドサクサで吹奏楽に肘鉄を喰らわされ、倒れかけた所を桂木に支えられる。
「ちょっと!あんた覚えたからね!覚悟しなよ!」
ヤンキー真っ青の啖呵を切った藤谷に押し出されて、やっとの思いで教室に戻って来た。
俺に続いて、重森までもが、やって来る。
そこに永田が、「うりゃあッ!」と、乱入。
ここはコロシアムか。
俺、永田、重森、3人は、ひたすら冷たい睨み合いを続けた。
同輩、後輩、先輩、まるで檻の中を覗くように廊下から3組を見物している。
通りがかるヤツらは、ついでのように顔を覗かせ、知り合いを1人でも見つけようもんなら、「ようよう」「どないなってんねん?」「悪い子は居ねェーがー」
何の遠慮も無く入って来て、俺達3人を値踏みするような目で見た後、仲間に向けて、「みんな誰に入れんの?」「決まんねーよ」「クジにする?」「それで変態野郎に決まったら、どうすんの?」
変態。変質者。痴漢。最っ低!言葉はクルクルと変わる。
直接、おまえだ!と、決めつける訳ではない。
3人共、邪なオブラートに包まれるように、しっとり責められていた。
地獄。
10分の休憩。昼休み。そして放課後。まさに地獄のエンドレス。
「誰だ!」
「どっちだ?」
「ヤッたやつ!今すぐ自分からさっさと吐けよ!」
朝より昼、そして昼より放課後、時間を追うごとにそれはヒートアップする。
野次馬に疑惑の矢を浴びせられて、「知らねーよ!」と、3人は3人共、何の根拠もない主張を、ただただ繰り返した。
そこに、重森が俺の真後ろ、音も無く忍び寄って来て、
「犯人は沢村だよ。決まってんだろ」
「違う!」(としか言えない)
すかさず桂木も来て、「あたしら妨害なんかやってない。沢村は違うよ!」
俺はそれに大きく頷いた。しかし、重森は引き下がらない。
「確実に沢村だよ。右川のヤツ、ずっとおまえの事を睨んでたじゃねーか」
「てゆうか、あの指は、しっかりあんたを差してたよ」
桂木VS重森。
2人が俺の頭上でヤリ合う。それに合わせて、そうだそうだ!と、吹奏楽部とバスケ部が、それぞれに揃いも揃って、息の合った掛け声を聞かせた。
「だって、右川と1番言い争ってたのは重森だもんね」
「1番バカにされたのは永田だろ」
「チビ太郎に1番スリ寄ったのは沢村だッ!コイツに間違いねーよッ!」
「それ、あんたでしょ!犬連れてヘラヘラしちゃってさ」
醜い争い。有権者の前で。
「あれって沢村くんでしょ。間違いないよ」
それは教室の隅っこ。
真面目でまともな判断力を持つ女子達が、冷静に、地味に持論を展開する。
「永田と重森に誘われたからって、右川さんが1人でのこのこ行くかな?」
「あたし、行かないと思う。まず絶対1人じゃ行かない」
「うん。行かないよ。呼び出された瞬間、ヤバいって逃げ出すよね。普通さ」
「右川さんが何の抵抗も無く呼び出しに応じてるって事は……そういう相手って事だよね」
冷静な分析が冴えている。侮れない。
そこでも桂木が、「それを言ったら、沢村が居たって逃げ出すよ。だって右川、ずっと怖がってたもん。沢村に殺されるって」
庇ってくれたのは、もう十分に分かった。だが、それを言ったら。
「それだ!それそれ」
「殺されるーって逃げ切れず」
「つまり……ヤラれちゃったんじゃないの?」
ひょううううううぅ~……目の前を、俺史上、最低温度の風が吹き抜ける。
もはや、これまで。
俺は目を閉じた。
毎年、それは選挙の注目度とは反比例する。
「今年はバスケで決まりだろ」
あるいは、
「今度は吹奏楽の番か。凹むワ~」
決まり切って、それほど期待もされない予測結果には、演説直後、すでに投票率は8割を超える。校舎棟に入ると、既に投票箱が設置してあり、有権者は教室に戻るついでに投票を終えることも出来るのだ。
だが今回は……未だ〝ゼロ〟。
どうしたらいいか分からない。
その行く末を見てから決めたい。
プロセスを楽しみたい。
理由はそれぞれのようだが……そして、予想通りというべきか、2年3組は揺れ続けた。
朝礼の演説を終え、そこら中から揉みくちゃにされながらクラスに戻ってくる途中、ドサクサで吹奏楽に肘鉄を喰らわされ、倒れかけた所を桂木に支えられる。
「ちょっと!あんた覚えたからね!覚悟しなよ!」
ヤンキー真っ青の啖呵を切った藤谷に押し出されて、やっとの思いで教室に戻って来た。
俺に続いて、重森までもが、やって来る。
そこに永田が、「うりゃあッ!」と、乱入。
ここはコロシアムか。
俺、永田、重森、3人は、ひたすら冷たい睨み合いを続けた。
同輩、後輩、先輩、まるで檻の中を覗くように廊下から3組を見物している。
通りがかるヤツらは、ついでのように顔を覗かせ、知り合いを1人でも見つけようもんなら、「ようよう」「どないなってんねん?」「悪い子は居ねェーがー」
何の遠慮も無く入って来て、俺達3人を値踏みするような目で見た後、仲間に向けて、「みんな誰に入れんの?」「決まんねーよ」「クジにする?」「それで変態野郎に決まったら、どうすんの?」
変態。変質者。痴漢。最っ低!言葉はクルクルと変わる。
直接、おまえだ!と、決めつける訳ではない。
3人共、邪なオブラートに包まれるように、しっとり責められていた。
地獄。
10分の休憩。昼休み。そして放課後。まさに地獄のエンドレス。
「誰だ!」
「どっちだ?」
「ヤッたやつ!今すぐ自分からさっさと吐けよ!」
朝より昼、そして昼より放課後、時間を追うごとにそれはヒートアップする。
野次馬に疑惑の矢を浴びせられて、「知らねーよ!」と、3人は3人共、何の根拠もない主張を、ただただ繰り返した。
そこに、重森が俺の真後ろ、音も無く忍び寄って来て、
「犯人は沢村だよ。決まってんだろ」
「違う!」(としか言えない)
すかさず桂木も来て、「あたしら妨害なんかやってない。沢村は違うよ!」
俺はそれに大きく頷いた。しかし、重森は引き下がらない。
「確実に沢村だよ。右川のヤツ、ずっとおまえの事を睨んでたじゃねーか」
「てゆうか、あの指は、しっかりあんたを差してたよ」
桂木VS重森。
2人が俺の頭上でヤリ合う。それに合わせて、そうだそうだ!と、吹奏楽部とバスケ部が、それぞれに揃いも揃って、息の合った掛け声を聞かせた。
「だって、右川と1番言い争ってたのは重森だもんね」
「1番バカにされたのは永田だろ」
「チビ太郎に1番スリ寄ったのは沢村だッ!コイツに間違いねーよッ!」
「それ、あんたでしょ!犬連れてヘラヘラしちゃってさ」
醜い争い。有権者の前で。
「あれって沢村くんでしょ。間違いないよ」
それは教室の隅っこ。
真面目でまともな判断力を持つ女子達が、冷静に、地味に持論を展開する。
「永田と重森に誘われたからって、右川さんが1人でのこのこ行くかな?」
「あたし、行かないと思う。まず絶対1人じゃ行かない」
「うん。行かないよ。呼び出された瞬間、ヤバいって逃げ出すよね。普通さ」
「右川さんが何の抵抗も無く呼び出しに応じてるって事は……そういう相手って事だよね」
冷静な分析が冴えている。侮れない。
そこでも桂木が、「それを言ったら、沢村が居たって逃げ出すよ。だって右川、ずっと怖がってたもん。沢村に殺されるって」
庇ってくれたのは、もう十分に分かった。だが、それを言ったら。
「それだ!それそれ」
「殺されるーって逃げ切れず」
「つまり……ヤラれちゃったんじゃないの?」
ひょううううううぅ~……目の前を、俺史上、最低温度の風が吹き抜ける。
もはや、これまで。
俺は目を閉じた。