リライトリライト
「俺は元彼とやらに感謝しないといけないのかもな。」

「はい?」

「今までの関係が居心地が良過ぎて壊したくなくてな。
 何もしないまま腰抜けで終わるところだった。」

 今までの関係が心地いいのは私も一緒だ。

「……もう今までの関係ではいられないんですか?」

「黒谷は魔性の女か?
 俺に一生独身でいろと?
 ま、黒谷がお望みなら?」

 茶化して笑う佐野主任にやっぱり今のこの関係のままなんてワガママなんだと改めて感じた。

「ダメですよ。幸せになってください。」

「なら黒谷がまず幸せそうじゃなきゃ無理だ。」

「どうして?私、関係ないですよ?」

「お前が泣きそうにしてると放っておけないだろ?
 誰が胸を貸してやるんだ。」

「泣いたら貸してくれるんですか?」

「必要ならな。」

 何故だろう。
 そう言われただけで泣けてきそうになる。

 涙はこぼしてないのに佐野主任の手が伸びてきて引き寄せられるまま肩に頭をくっつけた。
 精一杯強がって憎まれ口をたたく。

「今は必要ありませんけど?」

「今にも泣きそうな顔をしてた。」

 優しい穏やかな声。

 この腕に飛び込めたら幸せなんだろうな。
 そうは思っても飛び込めない。
 飛び込めないよ。

 ドキドキしている胸の鼓動を見ないようにして少しだけ目を閉じた。
 少しだけ。もう少しだけ…。







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