【完】溺愛恋愛マイスターにぞっこん?! 〜仔猫なハニーの恋愛奮闘記〜
「…くら………久倉?」
「…え?」
「なに、トリップしてんの?」
「あ、あぁ…すみません」
「なんか…心なしか顔赤いし、瞳潤んでる…。風邪でもいいたか?」
ぴと…
そう言う彼の声は、何時もとは違って怒っている風にも取れた。
何か言い返そうとして口ごもる。
跳ねるのが嫌で、しっかりと伸ばしてきた前髪を、すんなりと掻き分けて、彼の手が遠慮なしにするり、と入り込んできた。
その手の少しだけ冷めた体温に、ぴくり、と体が動いてしまう。
それに対して満足気に微笑む、彼。
思わず、洩れた…声。
「ん…」
「くくく。かーわいい声出しちゃって。でも、ま、熱はなさそうだな。よしよし」
そのまま髪をくしゃくしゃにされて、堪えられるものがなくなり、カァッと顔が赤くなった。
こんな時まで、なんてスマートなんだろうか、この人は。
流石は皇帝様。
何時だったか、彩良ちゃんから聞いた彼の四字熟語のもう1つ。
百戦錬磨。
確かに、と頷ける。
きっと、彼のお眼鏡に適った人は、凄く幸せなんだろうな…。