【完】溺愛恋愛マイスターにぞっこん?! 〜仔猫なハニーの恋愛奮闘記〜
「おーい。久倉〜」
「あらあら。噂をすれば…百戦錬磨の殿方が…」
「さ、彩良ちゃん!………は、はい!何ですかー?補佐?」
困った顔を隠すのに、軽く口を結んでから彼の前に行くと、彼はジッと私の顔を見つめる。
それは、それは、沈黙が出来る程長く。
「………」
「………?」
あんまり、そんなにジッと見ないで欲しい。
心の底まで、掬われてしまいそうだから。
仕舞っている…まだ言葉にならない想いまで、攫われてしまいそうだから…。
「ぷっ。変な顔」
「なっ?!」
「嘘だよーん。てか、俺の前で、顔作ってんなよ。お前は素の方がいいって」
「……」
「怒るなって。褒めてんだから」
わしゃわしゃ。
…ここの課に配属されてから暫く経つから、彼の癖はよく分った…つもりでいる。
最初はワックスやミストで整えていた髪型も、彼の前では意味を成さなかった。
だって毎日毎日、気紛れにこうやって髪を乱されたら、セットなんてしていられないじゃない。
それこそワックスやらミスト代が勿体無い。
だから、まぁ、流行りもあって切りっ放しにした訳だ。
これなら、多少崩されても手ぐしで直せるし、私的にも楽。