【完】溺愛恋愛マイスターにぞっこん?! 〜仔猫なハニーの恋愛奮闘記〜
「こーら。動くな」
「…っ。だって…」
「そんな可愛い反応ばっかしてっと…」
今すぐ、連れて帰るぞ?
囁かれて、それがとてつもなく恥ずかしくて、彼の両腕から逃れる為に、私は小さく叫んで立ち上がった。
それはもう…オーバーリアクションで。
「やっだっ!!」
がつん!
私はそんな音がするくらい、自分の膝を思い切り打ったけれど、痛いよりも朱に染まる全身を、彼に見られたくない。
「お、おい、久倉?」
「……も、もう、定時ですので、今日は失礼します」
「……分かった」
彼は終業を知らせるベルが鳴った事に気付いて、それより先は追求せずに、私にくるりと背中を向けて自分の仕事に戻って行く。
自分でも、可愛くないとは思うけれど。
毎日、毎日、からかわれるこっちの身にもなって欲しい。
男の人の一挙一動に、左右されるなんて、今までの私の中では有り得ない事。
騙されちゃ、いけない。
彼が私に執着するのも、何か訳がある筈。
その何かが分かるまでは、…こちらから堕ちている事を知られてはいけない。
わたしに背中を向けた彼に、抱き付きたい衝動をなんとか堪えて、私は自分のデスクの引き出しからバッグを取り出すと、とりあえずは会社の受付の子達が着替えをするロッカールームへと足を向けた。
受付を担当する同期の、早坂愛未(はやさかめぐみ)に話を聞いてもらう為に…。