【完】溺愛恋愛マイスターにぞっこん?! 〜仔猫なハニーの恋愛奮闘記〜
そして、私の返事を待つよりも早く、私の鞄とコートを手にした彼は、何時になくスマートなエスコートで私を地下駐車場に案内した。
彼の車はしっかりとしたメタリックブラックで、中もクラシックな感じになっている。
「ほら、おいで」
何時もとは違った、酷く甘い声。
おいで…、なんてそんな風に強請られたら、恋人じゃなくてもときめいてしまう。
私は小さく頷くと、差し出された彼の手をそっと取った。
「シートベルトしたか?」
「えっと、…はい」
「じゃあ、行くぞ?」
「はい、えと…お願いします」
そう言いながら、私は車窓から駐車場を見渡した。
社用車に2、3度乗った事しかない私は、この地下駐車場が何故か珍しくて仕方が無い。
そして。
螺旋状に、くるくると廻って上っていく感覚にも慣れていない…。
「どうした?黙り込んで?」
「ら、螺旋無理です…」
「はは、そりゃ悪かったな…大丈夫か?」
「だいじょばない…かも…」
外に出るまでの数分の間に、青ざめた私を気遣ってか、ハンドルを握ったまま、彼は片手で私の背中を擦ってくれた。
「外出たら窓開けるから…ほんの少しだけどな」
その言葉通り、彼は雪が入り込まない程度に窓を開けてくれた。
「寒くなったらすぐ締めるからな」
「はい…」
ことごとく、今日は彼のペースで物事が進んでしまっているように思う。