君の思いに届くまで
1章
1章
桜並木を愛車の軽自動車でくぐり抜けていく。
こうして満開の桜のトンネルを抜けていくのも、もう何度目だろう。
桜並木を抜けた先には、重厚で歴史を感じる時計台が見えてくる。
広い正門へ次から次へと希望に溢れた学生達が入っていく。
私は、瑞波ヨウ 28歳。
このK大学英文科の研究室で秘書をやっている。
元々この大学の一生徒だった。
英語が好きで、自分の教授のお手伝いなんかをやってるうちに「秘書に向いてる」と言われ、そのままずるずると今に至っている。
特に居心地が悪いわけでもなく、他にやりたいこともないので辞める理由もなかった。
3月にこれまでお世話になっていた立花教授が退職され、今日から赴任してくる教授専属の秘書になることが決まっていた。
同じく英文科の秘書の先輩である正木さんが、「とりあえずヨウちゃんがその教授の担当してね。」と有無をも言わさず決めてしまった。
新しい秘書を採用する方法もあったけれど、その教授は、これまでこの大学で秘書経験のある慣れた人材を求めていたそうだ。
教授によっては、自分で面接して採用を決めるケースもあるんだけど。
あんまりこだわりがないタイプなのかもね。
ただ、その新しい教授というのが結構謎めいていた。
なんでもイギリスでかの有名なO大で教鞭をふるっていたというかなりハイレベルな教授らしい。
正木さんは、「私はとてもじゃないけれど、そんなハイクラスの人種とは話が合わないわ」と言っていた。
そんなこと言ったら私だって。
とりあえず私が以前イギリスに留学経験があるというその一点だけが決め手だったらしい。
「まさかイギリス人じゃないでしょうね?」
私は眉間に皺を寄せながら正木さんに尋ねた。
「それが違うのよ。純粋な日本人なんだってば」
「どうしてイギリスに?」
「ご両親がずっとイギリスでお仕事されていたらしいわ」
正木さんは眼鏡を外すと、教授の履歴書を目を細めて見ながら答えた。
「ふぅん。じゃなんでまた急に日本に戻ってきたのかしら」
「さぁ、ねぇ。直接聞いてみたら?」
「話しやすそうなタイプならいいんだけどね。何分教授って人種は一風個性的な人が多いから」
私は首をすくめて笑うと、正木さんから履歴書を受け取って自分の研究室に向かった。
桜並木を愛車の軽自動車でくぐり抜けていく。
こうして満開の桜のトンネルを抜けていくのも、もう何度目だろう。
桜並木を抜けた先には、重厚で歴史を感じる時計台が見えてくる。
広い正門へ次から次へと希望に溢れた学生達が入っていく。
私は、瑞波ヨウ 28歳。
このK大学英文科の研究室で秘書をやっている。
元々この大学の一生徒だった。
英語が好きで、自分の教授のお手伝いなんかをやってるうちに「秘書に向いてる」と言われ、そのままずるずると今に至っている。
特に居心地が悪いわけでもなく、他にやりたいこともないので辞める理由もなかった。
3月にこれまでお世話になっていた立花教授が退職され、今日から赴任してくる教授専属の秘書になることが決まっていた。
同じく英文科の秘書の先輩である正木さんが、「とりあえずヨウちゃんがその教授の担当してね。」と有無をも言わさず決めてしまった。
新しい秘書を採用する方法もあったけれど、その教授は、これまでこの大学で秘書経験のある慣れた人材を求めていたそうだ。
教授によっては、自分で面接して採用を決めるケースもあるんだけど。
あんまりこだわりがないタイプなのかもね。
ただ、その新しい教授というのが結構謎めいていた。
なんでもイギリスでかの有名なO大で教鞭をふるっていたというかなりハイレベルな教授らしい。
正木さんは、「私はとてもじゃないけれど、そんなハイクラスの人種とは話が合わないわ」と言っていた。
そんなこと言ったら私だって。
とりあえず私が以前イギリスに留学経験があるというその一点だけが決め手だったらしい。
「まさかイギリス人じゃないでしょうね?」
私は眉間に皺を寄せながら正木さんに尋ねた。
「それが違うのよ。純粋な日本人なんだってば」
「どうしてイギリスに?」
「ご両親がずっとイギリスでお仕事されていたらしいわ」
正木さんは眼鏡を外すと、教授の履歴書を目を細めて見ながら答えた。
「ふぅん。じゃなんでまた急に日本に戻ってきたのかしら」
「さぁ、ねぇ。直接聞いてみたら?」
「話しやすそうなタイプならいいんだけどね。何分教授って人種は一風個性的な人が多いから」
私は首をすくめて笑うと、正木さんから履歴書を受け取って自分の研究室に向かった。
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