君の思いに届くまで
琉が去っていった後もまだしばらく胸のドキドキが止まらなかった。

そっと自分の胸に手を当ててイギリス紳士と2人で楽しげに話している琉の後ろ姿を見つめながら、私なんだかおかしくなっちゃったのかしらと思う。

これまでも、人並みにいくつかの恋愛を経験してきた。

こんな色気のない私を好きだと言ってくれる人も何人かいたし、両思いになって付き合ったことも何度かある。

だけど、琉のような男性に会ったのは初めてだった。


本当にカフェに一緒に行ってくれるのかな。

パーティが終わるのを待ってる時間すらもどかしい。

スコーンをかじりながら、時計ばかりを見ていた。

そんな私の横にマミィが座った。

「どうだった?琉は。私の言ってた通りのナイスガイでしょ」

マミィは私の変化に気付いているのかいないのかわからないけれど、私の肩をそっと抱いて腕をゆっくりと撫でた。

温かいマミィの腕が心地いい。

高揚していた私の気持ちが少しずつ落ち着いていく。

「ええ。とてもいい人ね」

私はマミィに笑って答えた。

「でも、残念ながら琉にはフィアンセがいるらしいのよ。私もさっきお友達に聞いたんだけど」

少し寂しげな目をして言ったマミィの言葉が私のど真ん中を貫いた。

言葉を忘れてしまったみたいに、ただ、黙ったままじっとマミィの顔を見つめた。

マミィも泣きそうな顔で私を見つめながら首を横に振った。

そうだったんだ。

だって琉はもう30歳だし、あれだけ素敵な人だもんね。

フィアンセがいたって全然おかしくない。

マミィは私の気持ちがお見通しだったんだろうか。

私が夢中になる前に防御戦をはってくれた。

だけど、その防御戦はもう遅い。

だって、私の中には既に琉でいっぱいになってしまっていたから。

「素敵な人は早く捕まえておかないとね。ヨウもこれから出会う誰かと運命を感じたらすぐに捕まえなきゃだめよ」

マミィはわざと明るく笑いながら私の背中をポンと叩いた。

私は曖昧な表情を浮かべて頷くと、まだ英国紳士と談笑しているであろう琉の方に視線を向けた。

琉は・・・紳士の横で話しながら私をじっと見つめていた。

どうして、そんな悲しそうな目で私を見てるの?

その視線に堪えきれなくなってすぐに目を逸らした。

これ以上目を合わしていたら、今度こそ完全に気持ちを持って行かれそうだったから。

まさか、まさかだよね?

琉も私と同じ気持ちだなんてことは。





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