君の思いに届くまで
ロンドンに向かう列車の中で、マミィが持たせてくれたサンドイッチを頬ばる。

車窓から見える景色は懐かしいようで、初めて見る新鮮さもあったり。

だけど、胸の高鳴りは、あの日と同じだった。

琉に会いにいくんじゃない。

だけど、琉のいるロンドンに行く。

琉がいる街で、同じ空気を吸いたい。

そして、ひょっとして偶然街中でばったり出会ったりしたら、「久しぶり」って笑って言おう。

「フィアンセの容態はどうですか?」

ってきちんと琉の目を見て尋ねよう。

きっと偶然なんてないとわかっていた。

だから、今こうしてロンドンに自分が向かえてるっていうことも。

気がついたらそのままウトウトしていた。

半分夢を見ながら心地よく揺られている。

あの幻想的な霧に包まれて、琉の庭を歩く。

霧は次第に濃くなり、周囲のあらゆるものが白く濁っている。

急に不安になって、琉の名前を呼んだ。

だけど、琉は現れない。

あまりにも回りが見えなくなり私はその場でしゃがみ込む。

誰か、助けて。

そう呟いた時、ふっと明るい日差しが私の目を刺した。

列車はロンドンに到着したらしく、ゆっくりと駅に停車する。

私はリュックを背おうと、1年ぶりのロンドンに降り立った。

駅の喧騒も、列車の吐くオイルの臭いも、人々がまとう香水の香りも、一気に私の中に蘇った。

あの時のままでホッとする。

この場所はまだ私の記憶にぶれはない。


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