君の思いに届くまで
ロンドンの街は若者達で賑わっていた。

相変わらず活気のある風景に自分は今ちゃんと溶け込めているのか、ショーウィンドウに映る自分をそっと横目で確認する。

多分、大丈夫だ。若者らしい格好だと頷く。

ゆっくりと石畳の道を抜け、大通りの脇道を進んだ。

この先に、琉のいる大学があったはずだ。

路地を抜けると、目の前がぱっと明るく広がり、その向こうに大学の時計台が見えた。

丁度いい時間だったのか時計台の鐘がカランカランと大きな音で鳴っている。

学生達はあの時みたいに、私なんて気にも留めずに大学の正門を行き交っていた。

琉は、この中にいるんだろうか?

正門の前で、時計台を見つめながら足が止まっていた。

その中に入れば、会える可能性が高まる。

琉の研究室の場所はまだ私の記憶に鮮明に残っていたから。

大きく深呼吸しながら自分の胸に手を当てる。

「どうかされましたか?」

ふいに私の背後で声がした。

振り返ると、金髪のかわいらしい女学生がにっこり微笑んで立っていた。

「あなたは日本人?中国人?」

その女学生は楽しげに尋ねてきた。

「日本人」

と小さい声で答えると、女学生は手を叩いて喜んだ。

「私、今日本文学と日本語を専攻しているの!日本はとても神秘的な国ね大好きだわ」

「そう?ありがとう」

日本文学か・・・。

確か、琉は大学で日本文学を教えていると言ってたっけ。

思わずその女学生に聞いていた。

「日本文学の先生って誰?」

女学生は、一瞬きょとんとした顔で私を見つめていたけれど、すぐに思い直したように微笑む。

「ミスター リュウ ミネギシよ。素敵な日本人だわ」

と答えた。

琉・・・。

その女学生を通じて琉に出会えたような錯覚に陥る。



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