君の思いに届くまで
早足でロンドン駅に向かう。

心臓がドクンドクンと重たく脈打っていた。

さようなら。

さようなら、琉。

私は心の中で何度もつぶやいた。

絶対後ろは振り向かないと心に決めて。

切符を買い、自分が乗る列車の扉の前に立つ。

カランカラン・・・・・・

遠くで琉のいる大学の時計台の音が鳴っているのが聞こえた。

見えるはずもないけれど、音の聞こえる方に一度だけ顔を向ける。

列車がプシューと大きく息を吐いたので、私は慌てて列車に飛び乗った。

これで本当に琉と二度と会えないような気がして、ぐっと堪えていたものがあふれ出す。

列車の扉に顔を向けたまま泣いていた。

いつか必ず迎えに行くって言ってた琉の真剣な眼差しが何度も私の脳裏をかすめる。

”いつか”っていうほど、遠くに感じる時制はないんじゃないだろうか。

そんな約束しなければよかった。

自分の心に思い出として刻まれてしまったから。

忘れようにも胸の内にひっかかって消えないもの。

もっと年をとって、そんなこともあったなぁって輝ける時代の思い出話にできる日が”いつか”来るのかもしれないけど。


今は、マミィの胸にぎゅっと抱きしめられたい。

「おかえり」って優しく温かく包まれたい。



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