君の思いに届くまで
「今日は楽しかったよ。ありがとう」

「いいえ。動物園にしてよかったですね。私も楽しかったし」

琉はそう言った私を目を細めて見つめる。

急に冷たい風が腕をすり抜けた。

そして、さっきまで明るかった空が一気に暗くなる。

「あれ?」

空を見上げると、濃い灰色の雲が瞬く間に空を覆っていた。

ポツン

私の頬に冷たいものが当たった。

「雨だ」

そう言うと、琉は荷物を肩からかけ私の手を取り走り出した。

その瞬間、ざーっとバケツをひっくり返したような雨が私達を襲う。

「嘘でしょ?」

私はしっかりと琉の手を握り締め着いて行く。

回りの人達も「きゃー」と騒ぎながら慌てて室内へ逃げ込んでいった。

どこもかしこもいっぱいでなかなか入る場所が見当たらない。

「車に戻ろうか」

琉は私の方を振り返り言った。

「はい」

動物園はほぼ見れたし。この雨はしばらく止みそうになかった。

「でも、びしょびしょですけど」

体に服がべっとりとはりついている。

「車内が濡れるのはどってことない。それよりヨウに風邪ひかせる方が辛い」

雨のせいで体中冷たいのにそんなこと言われたら、心はきゅうっと苦しいほどに熱くなった。

なんとか駐車場までたどり着き、車の中に飛び込んだ。

二人とも必死に走って息が切れている。

暖かい車中にホッとする。

「これ、使って」

車にいつも何かあった時ように積んでいるというタオルを一枚もらった。

「ありがとうございます」

大きなタオルを頭と体に巻き、垂れるしずくを拭った。

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