君の思いに届くまで
それからの私はできるだけ自由に過ごしていた。

今まで行きたかった場所に一人旅に出かけたり。

雑誌に載っていた話題のレストランに友達を誘って行ったり。

あまり読書をしない私が話題の本を片っ端から読みあさったりもした。

失恋はその人の肥やしになるって誰かが言ってたけれど、失恋自体が肥やしになるんじゃなくて、その痛手を乗り越えるために自分1人で過ごす時間が結局自分を成長させるのかもしれない。

恋をしている間は何も見えないし、何も聞こえないし、その人だけの時間しか費やさないから。

そんな風に考えられるようになったも成長の証なんだって、そんな話をしながら学生時代からの友人と笑い合った。

一年前までは誰かと笑い話にできるようになるなんて思いもしなかったから。

流れていく時間は寂しいけれど、悲しい記憶を薄めていってくれる。

何年か過ぎていくうちに、あのイギリスでの琉との出会いは、束の間の夢だったのかもしれないって思うようになっていた。

というか、思えるようになっていた。

決して忘れているわけじゃなく、自分の中の自分がそう持って行こうとしている。

私が壊れてしまわないように。

ある日の飲み会で友達と大笑いしていたら健に言われた。

「お前、無理しすぎ」

そんなこと言う健を私は無視した。

そう言った健の目はとても悲しい色をしていた。

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