君の思いに届くまで
「ヨークか・・・」

琉は作業の手を止めて呟くと遠い目をした。

「いい街だ」

「はい」

それだけ?

琉は急に眉間に皺を寄せて、こめかみに手を当てた。

「・・・ッた」

そう言うと、顔をしかめたままその場でうずくまった。

「ど、どうかしました?」

思わず琉の横に駆け寄り、その肩にそっと手を触れた。

「いや。ごめん。持病みたいなもんだ。時々偏頭痛が起こってね」

偏頭痛?

琉、そんな持病以前はなかったはずだ。

肩に触れてる手が熱い。

「もう大丈夫だから」

琉は私の手をそっと自分の肩から外した。

心配で思わず触れてしまった肩だったけれど、琉には迷惑だったのかもしれない。

初めて会った女性に馴れ馴れしく肩なんか触られて。

私の手を自分の肩から外したその琉の行動は私の淡い期待を一瞬で打ち砕いた。

本当に覚えてないんだ。

「きっとお疲れでしょう。あとは私が片づけるので椅子に座ってお休み下さい」

私はこの場から立ち去りたい衝動を必死に押さえながら琉に微笑んだ。

「すまないな。じゃ、お言葉に甘えて少しだけ休ませてもらおうか」

琉はゆっくりと立ち上がり、自分のデスクの椅子に腰掛けた。

「紅茶、お入れしましょうか?」

「ああ、ありがとう」

私は前日から用意していた紅茶とティカップを戸棚から取り出した。

「それにしても俺がコーヒーじゃなく紅茶が好きだってことよくわかったね」

琉は両手を顔の前に組んだまま優しく私を見つめていた。

そう、琉はコーヒーが嫌いだった。

嫌いというよりは飲むと胃が痛くなるんだと言っていつも紅茶を飲んでいたんだ。

「いえ、なんとなくイギリスに長くいらっしゃったとお聞きしていたので、紅茶かな・・・と」

ポットのお湯をカップに注ぎながらはぐらかした。

「なかなかいい勘をしているね。えっと・・・申し訳ないけど、君の名前をもう一度教えてくれる?」








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