君の思いに届くまで
「行こうか」

琉は私のペースに合わせて歩き始めた。

街はほんのり薄暗くなっていて、電灯が石畳の影を縁取ったように浮き上がらせていた。

夜になると夏でもひんやりとする。

だけど、絡めた腕だけがぽかぽかと暖かい。

思わずその腕に寄り添うようにくっついた。こんな風に初対面の相手とくっつくなんてこと今までの私では考えられないことだった。

寄り添った私を、琉は優しく微笑んで見下ろした。

目が合って恥ずかしくなって思わず「すみません」と言ってうつむく。

「いいよ、全然。寒いんだろ?この街は日が暮れると一気に冷えるから」

そう言うと、組んでいた腕をほどいていきなり私の肩を抱いた。

え-!!

あまりに突然のことで「きゃっ」っと声が漏れる。

「ごめん、驚いた?日本じゃこんなこと初対面でしないか」

「い、イギリスではこれも普通なんですか?」

ドキドキする胸を押さえながら尋ねる。

「イギリスでは・・・普通じゃない、かな。たぶんね」

琉は前を向いたまま答えた。

今、普通じゃないって言ったよね?

普通じゃないってことは、初対面で肩を抱かれるって、琉がそうしたいからしてるってこと?

琉の横顔を見つめながら、それ以上聞き返すことができなかった。

だって、もし聞いて「じゃやめとこう」って肩を抱く手が離れてしまったら嫌だったから。

小さく深呼吸した。

「あの看板見える?あそこだよ」

「あ、見えます」

見上げると、グレーの看板に白いペイントで「Good Luck」と書かれてあった。

「老舗のカフェなんだけど、立ち上げた人の孫が最近若者向けに改装したんだ。でも、メニューは昔のままで時代を超えて現代と融合しているような雰囲気が好きでね」

琉はカフェの扉をゆっくりと開けて私を先にくぐらせた。

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