君の思いに届くまで
自分に必死に言い聞かせるも、ドキドキはなかなか治まらなかった。

「ヨウ、耳まで真っ赤だよ。かわいいね。久しぶりだよ。こんなにシャイで純粋な日本の女性」

「やめて下さい」

思わず耳を両手で隠して口を固く結んだ。

これ以上琉みたいに素敵な男性に何か言われたら、どうにかなりそうなくらいに心臓が振るえていた。

琉はそんな私を目を細めて見つめていた。

「気を悪くしないでくれ。ヨウを見ていたら俺の正直な気持ちが口をついて出て来ただけだから」

嘘だ。

きっと琉って人は女の人にすごく慣れてるからそんなことが簡単に言えちゃうんだ。

このルックスでしかもイギリスに住んでるんだから余計よね。

聞き流しておこう。

琉みたいな洗練された人間が本気で私みたいな化粧っ気もない女性をかわいいだなんて思うわけないもの。

両手で耳を塞いだまま、ゆっくりと深呼吸した。

そして両手をぎゅっと握り締めて膝の上に戻した。

「それはそうと、さっきのヨウの質問に答えてなかったな」

琉は足を組み替えると両手で片膝を抱えた。

さっきの私の質問、ちゃんと覚えてくれてたんだ。

そんな些細なことで自分のテンションが少し上がっていることに戸惑っている。

「俺は小学生の頃から、父親の仕事の関係でイギリスのロンドンに住んでいるんだ。だからこちらには随分長いっていうか俺の人生の大半は日本ではなくイギリスにいることになる」

そうなんだ。

じゃ、琉は日本人というよりは限りなくイギリス人なのね。

どうりで、こちらの反応を迷わせるようなことを言ったりやったりするわけだ。

ようやく納得する。

琉は心配そうな目で私の顔をのぞき込んだ。

「もう、大丈夫かい?機嫌は治った?」

私は声に出さず、こくりと頷いた。

そんな優しい気遣いにも慣れなくてどう反応していいのかわからない。

別に気分なんて害してないし・・・?

私だって大学卒業して、立派なレディだっていう自負があるのに、妙に子供扱いされてるような点についてはちょっと不満だったけれど。






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