君の思いに届くまで
シャワーを終えてリビングに行くと、琉がうなだれた様子でソファーにもたれていた。

「何かあったの?」

その背中に寄り添う。

さっきの電話だ、きっと。

「・・・いや」

顔を上げた琉の目は少し赤く潤んでいた。

泣いてたの?

思わずその目から自分の目を逸らす。

「俺は一体何やってんだろう」

琉は自分の額に手をやってうつむいた。

「話して」

きっと私に言いにくいことなんだろうっていう勘が働く。

だから、そのことに触れる私も覚悟が必要なんだろうって。

その時は琉の悲しみを少しでも引き受けたいと思っていた。

尚もためらっている琉の背中を抱きしめた。

「私は大丈夫だから」

「すまない。本当にごめん」

「どうして謝るの?聞く前からあやまらないでほしい」

胸の奥がズキンズキンと痛み出していた。

「ヨウに言ったところでどうしようもない、これは俺の責任だ。ただ、これ以上誰かを傷付けるのは俺もつらい。きっとヨウ、君も傷付けてしまう」

「私は傷つかない。だって琉と出会えたっていうだけでそれだけで十分なんだもの」

最初からわかってた。

この狂おしいほどの恋にはすぐに終わりが来るってこと。

後悔しない3日間過ごさなくちゃならないってことも。

「俺のフィアンセ、入院してるって言っただろう?目の病で薄靄の世界に今いるって」

私は琉の横顔を見つめながら頷いた。

「昨晩、急変したらしい。今朝、完全に光を失ってしまったって」

霧のような世界ですら恐ろしいのに、真っ暗闇の世界につれて行かれてしまった?

私達が、愛し合っていた間に。

私の魂の半分がすーっと抜け落ちるような感覚。

これは、罰だ。

琉と私への。

こんなにも自分の浅はかさに苦しくなることは今までなかった。





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