君の思いに届くまで
「フィアンセは、俺と別れたいって言ってきた。目の見えない女性と結婚するのはあまりにも俺に不自由をかけるからって」

胸がドキドキと脈打っていた。

自分で制御できないほどに激しく。

「俺は、今からフィアンセの元に行く。そうしなくちゃいけないんだ。ヨウ、わかってくれるかい?」

琉の寂しげな目が私を見上げた。

今にも涙がこぼれそうになるのを必死に堪える。

頷いたら涙が転がりそうで、そのまま琉の瞳を見つめた。

「はっきり言うけれど、ヨウは何も悪くない。俺がヨウの事を愛してしまった。俺の勝手で皆を傷付けたんだ」

「もう言わないで」

聞きたくなかった。

琉の後悔なんて。

私は琉の体にしがみついた。

マミィの言ってた言葉が今更ながら私の体をバラのトゲの弦で締め付ける。

「この三日間だけって、お互いわかってたじゃない?だからいいの。琉も私も大丈夫なの」

本当は違う。

「フィアンセのところへ行ってあげて。私もこのままマミィのところへ帰るから」

琉はそっと私の背中に腕を回した。

もう最後かもしれない琉のキスが欲しかった。

だけど、琉はそのまま私の体を自分から引き離し、私のおでこにかかった前髪を上げて僅かに微笑むだけだった。

「忘れないでね。私のこと」

「忘れられるわけがない」

そして、私の手をしっかりと握った。

「ヨウの幸せをここからずっと祈ってるから」

「もし生まれ変わったら、私を真っ先に見つけてね」

自分でも何を言ってるのかわからなかった。

この寂しさと苦しさから早く逃れたい、ただそれだけだった。

自分の気持ちに嘘をついて、その嘘を本当の気持ちにしてしまいたかった。

本当は・・・。

これからもずっと一緒にいたかった。

琉と二人で。


琉に空港まで送ってもらい別れた。

飛行機の中で、馬鹿みたいに泣き続けた。
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