君の思いに届くまで
そんな私を心配してか、週末が来るたびに私を外に連れ出しては気分転換させてくれたのが健だった。

健には本当のこと言うべきか言わざるべきかすごく悩んだけれど、結局言えないまま胸に錘をのせたまま時間だけが過ぎていく。

留学から戻って半年ほど経ったそんなある日、マミィからエアメールが届いた。

『ヨウ
元気していますか?こちらはすっかり寒くなり、毎朝道が凍てついています。あなたが大好きだったチョコチップ入りのマフィンをオーブンで焼きながらヨウがいた夏の日々を懐かしく思い出しています。またいつでも遊びにいらっしゃい。ヨークの母より』

葉書の裏には素敵なバラの花が満開の庭園の写真だった。

冬なのに、春の絵はがきを使うところがチャーミングなマミィらしくて笑える。

葉書の下の方に小さく『ps』という文字を見つけた。

『琉と久しぶりに会いました。少し痩せたけれど元気です。フィアンセの目の治療のためにフランスまでしばらく行くようです』

琉・・・。

その文字から琉の声、顔、手の重みが一気に私の中から溢れ出てきた。

封印しようとしていたのに。

フィアンセの治療のためにフランスに行ってるんだ。

思っていたとおりだった。

琉は、視力を失ったフィアンセのそばに寄り添っていた。

そんな優しい琉が好きだったけれど、自分の中の嫌な自分がどうして?って何度も叫んでいた。

本当は日本まで私を追い掛けてきてほしかった。

そんなことできるはずもないのに。

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