君の思いに届くまで
「どう?ヨークの生活は」

琉は尋ねた。

「とても楽しいです。この辺りはとても治安もいいし人も親切だし。おいしいカフェもいっぱいあって毎日夢みたいな生活です」

「そうだね。特にここはイギリスでも観光地として人気のエリアだからとりわけ居心地のいい場所だ。カフェは好き?」

「はい。どのお店もおしゃれだし、おいしくて。毎日通っても飽きません。」

琉は微笑みながら頷いた。

「そう。じゃ、このパーティが終わった後、一緒にカフェ行かない?お薦めのカフェがあるんだけど」

「え?」

心臓が止まりそうってこういうことを言うんだろう。

時間が一瞬ひっくり返ったような錯覚に陥る。

だって、こんな風に今会ったばかりの人にその日のうちに誘われるなんて初めてなんだもん。

「もちろん、ヨウが迷惑じゃなければ、だけど」

驚いた顔でフリーズしている私を見つめたまま遠慮がちに言った。

「全然迷惑じゃないです」

時空の狂った状態のまま私は答えていた。

琉のきれいな顔を一分一秒見逃したくないくらい見つめた。

何を期待してこんなにも自分が見つめているのかわからない。

今までに感じたことがない感覚だった。

琉の目が再び私の目と合わさった。

ドクン。

今まで止まっていた何かが私の体の奥で突き動かされた。

「・・・よかった」

琉の目はまっすぐに私を見つめていた。


この瞬間から何かが始まった。これは、一体何だろう。

・・・恋?

だけど、そんな簡単な言葉で言い表せるようなものじゃなかった。

もっと激しい感情が止めても止めても溢れてくるような。

自分の理性だけではどうしようもないような衝動に近い感情。

こんなことも初めてで、琉と見つめ合ったまま心の中では動揺して右往左往していた。

胸の鼓動が最大限に振り切った時、

「ハイ!リュウ」

頭上から男性の声が降ってきた。

ふっと現実の時間の流れが私に戻ってくる。

声の方を見上げると、かなり大柄でひげを蓄えた紳士がワイングラスを片手に琉に笑いかけていた。

琉はすぐにベンチから立ち上がりハグをすると、私も聞き取れないくらいの流暢な英語でその紳士と談笑を始めた。

どうやら琉の知り合いらしい。

「ヨウ、ごめん。また後で」

琉は私にそう言うと、その紳士と2人で話しながらベンチから離れていった。


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