君の思いに届くまで
「意外かい?こんないい年をしてって思っただろう」

琉はそう言いながら笑った。

「これでも俺は昔から動物好きなんだ。子供の頃はいつも家に犬がいてね、とてもかわいがっていた」

「そうなんですね。私も犬は好きで昔飼ってました」

そう言いながら、あの雨の日の出会いを思い出してそのまま口をつぐんだ。

「じゃ、明日はお天気もよさそうだし動物園にしましよう」

琉は久しぶりだなぁと何度も呟きながら嬉しそうな顔をしていた。

そんなに嬉しそうな顔をされたらこちらまで嬉しくなってくる。

「ヨウ」

テーブルの上に置いた私の手の上からそっと琉の手が被さった。

「こんな無理を聞いてくれて本当にありがとう。俺もヨウの記憶の欠片を必死に見つけるから」

「いいえ、こちらこそありがとうございます」

琉の熱い眼差しに堪えきれなくなって視線を落とした。

「そろそろ寝る支度しますね」

ドキドキが止まらなくなりそうだったから、そう言って椅子から立ち上がる。

その時、琉が私の手をぎゅっと握って引き留めた。

「・・・・・・抱きしめてもいいかい?」

少し間があって、琉がささやいた。

「え」

この状況だけでも苦しくてたまらないのに。

私が答える間もなく、琉の胸に引き寄せられていた。

私に刻まれた体の記憶がふつふつと蘇ってくる。

温かい琉の胸板、がっしりとした腕。

そして繊細な手。





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