瞬くたびに
その日の晩、ベッドの中ですっかり目が冴えてしまっていた結々は、要からの突然の電話に飛び起きた。

何かあった時のためにと、この前番号を交換しておいたのだ。

「結々ちゃん? さっき病院から葵の家に電話があったみたいで、なんか、葵が急な発作を起こしたらしい」

そう言った電話越しの要の声は内容に反して落ち着いていたから、結々もなんとかパニックにならずに話を聞くことができた。

「えっ! 発作、ですか?」

「夕方の過呼吸の時みたいに、突然呼吸困難になったみたいだ。痙攣も出ているらしい。今はもう落ち着いたらしいけど、やっぱり晴那のショックが原因だろうって」

「そうですか……」

やはり晴那のことは葵にとって、想像を絶するほどの苦痛であったのだろう。

抱えきれない悲しみが、発作として表れてしまうほどに。

「ごめん、こんな夜遅くに」

「いえ、教えてくれてありがとうございました」

そう言い終えた途端、受話器の中に沈黙が広がった。

どちらとも何も言わない。

切ってしまおう、とは思わなかった。

ただ暗闇の中ひざを抱えて、その無音に耳を傾けていた。

「あのさ、俺、葵にまた元気になってほしい」

しばらくして紡がれた要の言葉が、その静けさをそっと押し開く。

「でもどうすれば葵が元気になるのか分からない」

「私もです」

短い言葉に、思いがこもる。

「時間が、解決してくれるのかな」

「そういうものかもしれないですね。こういう悲しみは」

「また三年以上かかるのか」

要がこっそりため息をついたのが伝わってきた。

三年という年数は言葉にしてみると重くて、結々は口をつぐんでしまう。

「お休み」

「お休みなさい」

その一言と共に電話を切ってしまえば、後には一人きりの空間が残されているだけだった。
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