瞬くたびに
結々は窓の外に目を向ける。

雨はさっきよりも強くなっていて、結々の不安を掻き立てる。

こんな雨の夜に、葵はどこに行ったのだろうか。

「先輩、私、探してきます!」

「え、ちょっと、結々ちゃん」

要の声を遮るように通話を切って、結々は部屋を走り出た。

傘を開いて雨の中に飛び込めば、途端にひやりとした空気が体を包む。

見上げると、街灯の白い光を通って銀色の線となった雨が濡れたアスファルトに叩き付けられていた。

葵は一体どこに行ったのだろう。勢いのまま飛び出してきたけれど、どこに行けばよいのか分からなくて結々はただやみくもに走り回るしかない。

葵は落ち込んだ時、どこへ行くのか。

どんな場所が好きで、何を見て落ち着くのか。

これまで片想いで、ずっとその背中を見てきたと思っていたけれど、所詮追っていたのは後ろ姿で、彼について結々はまだ何も知らないままだった。


葵のアパートに行くまでの通り道や、途中にある公園にも、彼の姿はなかった。

結々の家からここまで十五分、走りっぱなしであったからさすがに息があがる。

もう少し探したら一度戻ろうと、結々は大通りから逸れた道に入り込んだ。

そこは少し坂になっていて、流れてくる水に靴を濡らしながら奥の方へ目を凝らすと、踏切を挟んだ向こうにぼんやりと人影が見えた。

まさかと思い足を速める。

雨を邪魔に思いながら進めば、傘もささずに踏切の傍に立ち尽くしているのは、やはり葵であった。

「先輩」
 
声をかけても聞こえないのか、葵はぴくりとも動かない。

そのただならぬ様子を不審に思ったその時、カンカンカンカン、と甲高い音とともに遮断機が下り始めた。

途端、結々の頭に嫌な予感が走る。

「藤宮先輩!」

悲鳴のような叫びは、二人の間を引き裂くように走ってきた電車の轟音にかき消される。

結々は祈るような思いで強く目をつぶった。

……まさか

巻き起こる風が、結々の肩までの髪を強くなびかせる。

やがて電車の音が遠のくとともに、空気も動きを止めて、ただ雨の音だけがそこに響いていた。

結々は息を止めたままおそるおそる目を開く。
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