瞬くたびに
「多分、今の俺は四年後の俺と違うと思う。鈴本さんが彼女だって言っても気持ちが切りかえられなくて、晴那のことも……俺、やっぱりまだ晴那のことが……」

「いいんですよ」

うつぶせていた頭をゆっくりとあげて、結々は言う。

「いいんです。今は、先輩は自分のことだけを考えていてください。私のことは気にしてくれなくてもいいんですよ」

葵が小さく息を吐きだしたのが伝わってくる。

結々は少し微笑んで、長く落とされた自分の影を見つめていた。

「鈴本さんはさ、どうして俺を好きになったの」

しんとした空間に二人きり。

葵の純粋な質問に、結々は思わずふふ、と微笑む。

「ひみつです」

言いながら思い出すのは入学式直後、四月の新歓での出来事だった。


その日、大量に押し付けられたサークルのパンフレットを抱えて校舎をうろうろと歩き回っていた結々は、ふと壁に飾られているいくつもの写真に目を向けた。

それもサークルのアピールの一環であるようで、何列にも並べられたそれらの向こうには、手書きで大きく「写真サークル」と書いた紙の貼りつけられたドアがある。

多分部室なのだろう。

写真には特に興味がなかったため、見るとはなしに眺めて通り過ぎようとしたその時、結々は一枚の写真の前でその足を止めた。

真っ赤に染まる紅葉や暖かな陽だまり、様々なアングルで撮られた色鮮やかな景色の中に、ぽつんと一枚だけ色彩のない写真があった。

正確には色がないのではなく、雨降る中写された薄青のその情景は、そこだけ光をまとっていないように見えたのだ。

誰もいない道を撮ったそれは暗く深く沈んでいて、そこから伝わる痛いほどの悲しみが結々の目を釘付けにする。

こんな景色を結々は確かに見たことがあった。
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