瞬くたびに
それはまだ小学校三年生になったばかりの頃、父親が突然いなくなってしまった時のことだった。

原因は脳卒中だったという。

 
朝、いつもどおり元気に出かけていったばかりの父が帰ってこないのが理解できなくて、何の前触れもなく訪れた別れに、幼い結々は戸惑うしかなかった。

その頃に見ていたのが、この写真のような景色だったのだ。

朝起きて見る景色、帰り道の風景、数日前まで色づいていたそれらが突然色をなくして薄青の寂しげなものに変わってしまう。

それはひどく暗くて、心細い色をしているのだった。

重苦しくのしかかってくるその中を、時には泣きながら、時にはぼんやりと何も考えられずに歩く。

しばらくそんな日々が続いていたが、やがて時が経つにつれてそんな日は少なくなっていき、気が付けばまわりの景色も元の色を取り戻していた。

だからしばらく忘れていたのだ。

そして、記憶のかなたに追いやっていた情景が突然目の前に現れた事に結々は驚く。

この写真を撮った人は、どんな人なのだろうか。

そんな事を思いながらその場から動かないでいた結々のところに、ちょうど部員らしき青年がやってきたのだった。

『写真部に何か用?』

『あ、あの。この写真が気になって、ちょっと……見ていたんです』

『その写真、俺が撮ったんだ』

これが葵との出会いだった。


それからは、気が付けば葵を目で追っていることが多くなった。

他の先輩たちの評判通り、葵はいい人であったけれど、いつも誰かと話すときには一線を引いているようだった。

どうやったらそれを乗り越えられるのか、そんな事ばかりを考えているうちに、気が付けば好きになっていたのだ。


「でも好きです。すごく好きです」

「……ありがとう」

「私のことは考えなくてもいいけど、でもこれだけはちゃんと覚えていてください」

「うん」

葵はただそう答える。
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