瞬くたびに
駅に着いたときには、あたりはすっかり暗くなっていた。

アパートから最寄りの、券売機以外何もない小さな駅を出てしまえば、狭い道に街灯の明かりがぽつぽつと続いている。

二人は言葉少なに、その道をまっすぐ歩いた。

「鈴本さん、今日はありがとう。いろいろ聞いてくれて。それに、たくさん話ができてよかった」

結々のアパートの前まで来た時、葵は立ち止まってそう言った。

「また話聞かせて。俺たちのこと」

まっすぐに見つめるその視線に耐えられなくて、思わず結々はうつむく。

じゃあお休み、と言って葵は背中を向け歩き始めた。

だんだんと遠くなってゆくその姿に、罪悪感だけが後に残る。

と、曇る気持ちのまま何気なく触れた髪に、全身からさっと血の気が引いた。

葵に貰ったヘアピンがない。

結々はパニックになって両手で頭を探る。

……やっぱりない。

帰りの電車の中までは、確かについていたのに。

……ない。ない。どうしよう、どうしよう、どうしよう。

勢いのまま、結々は葵が歩いていった方向とは反対側、二人で通った駅に続く道を駆け出していった。

注意深く足元を見ながらもと来た道をたどる。

焦りと動揺で息が苦しい。

しきりに瞬きをする目から涙が滲んで、夜風に冷え切った頬を冷たく濡らした。

……罰が当たったんだ。

そんな考えが頭を占める。

……私が先輩をだましているから、これが嘘の関係だから、なくしちゃったんだ。

葵が結々を思ってプレゼントしてくれた唯一の繋がりをなくしてしまったことが、二人の関係の不確かさを証明しているように思えた。

今日の会話を思い出す。葵を繋ぎとめるために、さも相思相愛だったかのように虚しい嘘を塗り重ねる自分は、ひどく哀れで滑稽だった。

ヘアピンを探し回ってせわしなく動かしていた足を止め、結々はその場に立ち尽くす。

流れ続ける涙を抑えるように、絶望的な気持ちのまま、両手で顔を覆った。

白い街灯の明かりがスポットライトのように、肩を震わせてしゃくりあげるその姿を照らし出す。

「鈴本さん」
< 63 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop