瞬くたびに
そうして過ぎ去った景色は二度と見ることが出来ない。だから写真に残すんだ。

いつか葵が言った言葉。

けれどその後、彼は手にしたカメラに悲しげなまなざしを向け、ため息交じりに続けた。

『もし俺が死んでも、俺が綺麗だと思った景色はこうやっていつまでも残る。二度と見られない色も、写真の中でなら何度だって見られる。それはすごいことじゃないかって、そう思ってた。……でも、死んでも残るなんて嘘だ。死んだら、それでなにもかも終わりだ。何が残ったってしかたない。そう考えたら、今撮っているこの写真になんの意味があるんだって、そう思うようになって』

それじゃあ、もう写真は嫌いなんですか? 

そう尋ねる結々に、ゆるく頭を横に振って、

『好きだよ。好きだけど、たまに無性に……』

そこまで言って、彼は寂しげに笑うのだ。

『哀しいんだ』 




何と言えば良いのか分からなくて、ただ立ち尽くすしかない結々から目をそらし、もう一度葵は

「あの人、誰なの?」

と聞いた。

今度は、傍に立っている茶髪の青年に。

困ったようにこちらに目を向けた青年は、しかし次の瞬間、何かを思い出したのかはっとした表情を見せた。

「あ、もしかして、鈴本……さん?」

「はい、鈴本です。鈴本結々といいます」

「そうだ、お前、あの子……お前の彼女だよ。前にそう言ってただろ?」

その台詞に葵はゆっくりと目線を青年から結々の方へ動かした。

絡まる視線に一瞬どきりとする結々だったが、葵は冷たく言い放つ。

「……何言ってるんだよ」

迷惑そうに、少し顔をしかめながら。

そしてもどかしそうに青年の腕を掴む。

「なあ、それより晴那(せな)は? 晴那はどこにいるんだよ、要(かなめ)」

要と呼ばれた青年は、腕を掴まれたまま葵を見つめる。

その顔は今にも泣きだしそうだった。

何か言おうと何度も口を開いていたが、

「……ちょっと待ってろ、すぐ戻るから」

結局かすれた声でやっとそれだけ絞り出すと、結々の手を引っ張って病室の外へ連れ出した。
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