セルロイド・ラヴァ‘S
「誰か次を見つけようって気になってる?」
ストレートに訊かれたから半分困った笑いが漏れた。
「どうでしょうね・・・。別に懲りた訳じゃないので縁があれば・・・とは思いますけど。焦って見つける気はないって感じです」
「俺はどう?」
「・・・はい?」
意味を呑み込めなかった。
「俺ね、ずっと吉井さんいいなって思ってた。吉井さんだけなんだよな、俺達営業にいってらっしゃいとお帰りなさいって必ず声かけてくれるの。あれ案外、嬉しいよ?」
そんな当たり前のことで?
羽鳥さんが照れたように笑うから、こっちまで照れ気味に。
「そんな大したことじゃないですけど・・・」
「他の事務は折り返しの電話のメモに相手の名前しか書いてないんだよ。でも吉井さんは必ず電話番号まで書いてくれたり、そういうのもさ。何か色々ひっくるめて好きだなって思った」
そう言って真っ直ぐ向けられた眼差しは、冗談を云ってるようには見えなかった。あんまり唐突でどう受け止めていいのか自分でも戸惑っていて。答えに詰まってしまう。
「・・・検討の余地はある?」
職場で見るのとは違う、羽鳥さんの真剣な表情。私は自分の中に正直な心情を辿りながらしばらく押し黙り。彼も急かすことなく静かに待っていてくれた。
「・・・・・・あの」
「うん」
穏やかな返事に緊張しつつも今の気持ちを伝えることにする。
「羽鳥さんにそう言っていただけて驚いたし有り難いって・・・思います。でも・・・その、同じ職場ですし、ちょっと考えられないというか・・・」
いざ口に出してみれば歯切れの悪い言葉しか出てこない。けれど本音だった。
好意では無かったにしろ羽鳥さんに好感は持っていた。ありがとうも、ごめんも素直に云える人だし、横柄な態度や高圧的な物言いをされたことも一度もない。営業さんにそういう人間はざらだ。彼は少なくとも他人を思い遣れ、自己中心的じゃない。好きか嫌いかで言えば前者。
既婚者だったというのも含めて、今まで恋愛対象として見たことが無かったし、これから意識が変わる可能性はあると思う。でも。職場恋愛のリスクはもう経験済みだ。離婚するまで共働きで一緒の会社だったから転職を余儀なくされた。浮気相手も社内の子だった。・・・最悪を知ってる。
この先。羽鳥さんと気まずいことになって辞めざるを得なくなるリスクは背負いたくない。簡単に聴こえるけど、転職に使うエネルギーって半端ない。生活だってかかってる。
私は、羽鳥さんが超えようとするその一線のかなり手前で歯止めをかけようとしていた。
ストレートに訊かれたから半分困った笑いが漏れた。
「どうでしょうね・・・。別に懲りた訳じゃないので縁があれば・・・とは思いますけど。焦って見つける気はないって感じです」
「俺はどう?」
「・・・はい?」
意味を呑み込めなかった。
「俺ね、ずっと吉井さんいいなって思ってた。吉井さんだけなんだよな、俺達営業にいってらっしゃいとお帰りなさいって必ず声かけてくれるの。あれ案外、嬉しいよ?」
そんな当たり前のことで?
羽鳥さんが照れたように笑うから、こっちまで照れ気味に。
「そんな大したことじゃないですけど・・・」
「他の事務は折り返しの電話のメモに相手の名前しか書いてないんだよ。でも吉井さんは必ず電話番号まで書いてくれたり、そういうのもさ。何か色々ひっくるめて好きだなって思った」
そう言って真っ直ぐ向けられた眼差しは、冗談を云ってるようには見えなかった。あんまり唐突でどう受け止めていいのか自分でも戸惑っていて。答えに詰まってしまう。
「・・・検討の余地はある?」
職場で見るのとは違う、羽鳥さんの真剣な表情。私は自分の中に正直な心情を辿りながらしばらく押し黙り。彼も急かすことなく静かに待っていてくれた。
「・・・・・・あの」
「うん」
穏やかな返事に緊張しつつも今の気持ちを伝えることにする。
「羽鳥さんにそう言っていただけて驚いたし有り難いって・・・思います。でも・・・その、同じ職場ですし、ちょっと考えられないというか・・・」
いざ口に出してみれば歯切れの悪い言葉しか出てこない。けれど本音だった。
好意では無かったにしろ羽鳥さんに好感は持っていた。ありがとうも、ごめんも素直に云える人だし、横柄な態度や高圧的な物言いをされたことも一度もない。営業さんにそういう人間はざらだ。彼は少なくとも他人を思い遣れ、自己中心的じゃない。好きか嫌いかで言えば前者。
既婚者だったというのも含めて、今まで恋愛対象として見たことが無かったし、これから意識が変わる可能性はあると思う。でも。職場恋愛のリスクはもう経験済みだ。離婚するまで共働きで一緒の会社だったから転職を余儀なくされた。浮気相手も社内の子だった。・・・最悪を知ってる。
この先。羽鳥さんと気まずいことになって辞めざるを得なくなるリスクは背負いたくない。簡単に聴こえるけど、転職に使うエネルギーって半端ない。生活だってかかってる。
私は、羽鳥さんが超えようとするその一線のかなり手前で歯止めをかけようとしていた。