セルロイド・ラヴァ‘S
会社は、駅の向こう口から歩いて5分ほどのマンションの1階店舗だった。私は駅を利用してるんじゃなく毎日ただ中を通り抜けてるだけ。つまり、家から徒歩20分ほどの通勤時間というわけだ。多少の残業が発生したところで困ることなんて皆無。羽鳥さんに気を遣ってもらって却って悪かったぐらい。こっちは気ままな独り者なんだし。
何となく溜め息を吐いてスマホをバッグに仕舞い、さて、と向き直って歩き出しかけた時。カランカランとドアベルの音と共にアーチ型の木製の扉が中から開き、喫茶店のマスターらしき男性と鉢合わせの恰好になってしまった。
「あ・・・っ、すみませんっ」
目が合い慌てて立ち去ろうとすると。
「良かったらどうぞ。ご馳走しますから珈琲を飲んで行かれませんか?」
とても柔らかな声に引き留められて。驚いたけど思わず私は立ち止まって振り返っていた。
お店の中からの淡い照明の灯りが逆光になっていたけれど、ふわりとした優しい笑みと。バーテンダーのような装いのスラリとした佇まいに一瞬、目を奪われていた。
自分でもよく分からない。入ったこともないお店の人に突然、声を掛けられ。しかも帰宅途中で。普通なら絶対に断ってた。
どうしてだったんだろう。まるで吸い込まれるように私の足は勝手に彼の方に向かい。彼の紳士な振る舞いに誘(いざな)われて、どんな名前のお店だったかも知らずに中に足を踏み入れたのだった。
何となく溜め息を吐いてスマホをバッグに仕舞い、さて、と向き直って歩き出しかけた時。カランカランとドアベルの音と共にアーチ型の木製の扉が中から開き、喫茶店のマスターらしき男性と鉢合わせの恰好になってしまった。
「あ・・・っ、すみませんっ」
目が合い慌てて立ち去ろうとすると。
「良かったらどうぞ。ご馳走しますから珈琲を飲んで行かれませんか?」
とても柔らかな声に引き留められて。驚いたけど思わず私は立ち止まって振り返っていた。
お店の中からの淡い照明の灯りが逆光になっていたけれど、ふわりとした優しい笑みと。バーテンダーのような装いのスラリとした佇まいに一瞬、目を奪われていた。
自分でもよく分からない。入ったこともないお店の人に突然、声を掛けられ。しかも帰宅途中で。普通なら絶対に断ってた。
どうしてだったんだろう。まるで吸い込まれるように私の足は勝手に彼の方に向かい。彼の紳士な振る舞いに誘(いざな)われて、どんな名前のお店だったかも知らずに中に足を踏み入れたのだった。