セルロイド・ラヴァ‘S
4-1
12月に入って会社は有り難いことに契約ラッシュで、残業が少し続いたりもしていた。 
 
「あー、やっと終わった!」

駅前のつくし野で羽鳥さんとお疲れ会。

細かい買い主さんで契約にこぎつけるまでも苦労だった上、今日の契約も質問攻め。亀の歩みよりノロいんじゃないかってぐらい時間がかかり、夕方5時開始で終わったのは8時半すぎ。さすがに帰ってから何もする気力がないと、羽鳥さんに誘われた次第だ。もちろん愁一さんにもラインで伝えておいた。

珍しく愚痴っぽい彼と「お疲れさまでした」とグラスを合わせ。

「さすがの俺もしんどい客だったなぁ」

ふうっと長い息を吐いたのを相槌を打って返す。

「引き渡しも面倒そうですね」

「言うなよそれ」

心底嫌そうに羽鳥さんはノンアルコールのビールを煽る。

「無事に終わったらご褒美くらい欲しいんだけどね」

「金一封ですか?店長に言ってみたらどうです?」

「違うよ吉井さんから」

悪戯っぽく返されて言葉に詰まった。

自分の気持ちをオープンにしちゃってる所為か、二人きりだと羽鳥さんは遠慮がなくなった。しつこく口説かれてるとかセクハラとかそういうんじゃなく、軽口で冗談みたいに。

「・・・私のことは待たないんじゃないんですか?」
 
わざと冷静に。羽鳥さんのペースに乗せられないよう。

「待ってないよ。行けそうな時は行く、基本でしょ」

「ご期待には添えませんが」

「そういうとこも好きだよ、睦月ちゃん?」

涼しそうに、あっけらかんと言われる。しかも睦月ちゃん・・・て。

呆れて見せると羽鳥さんは可笑しそうに声を上げて笑った。会社ではあまり見ない無邪気な笑顔が少し可愛いなと思った。  
 
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