セルロイド・ラヴァ‘S
「羽鳥君。夕飯を一緒にどうかと思ってるんだけど、引き留めても構わないかな?」

私達をカウンター席に(いざな)って、愁一さんが向こう側から視線を傾げた。

「じゃあ折角だからお言葉に甘えていいですか」

「遠慮なくどうぞ。睦月はお客様の相手をしておいで。僕がやるよ」 

「あ、うん。手伝うことあったら呼んでね」

笑顔を残して愁一さんが奥に消えると、追うようにしばらく羽鳥さんはそっちを見据えていた。
やがて小さく息を吐き、私を見やって「・・・なるほどね」とだけ言う。何がどう『なるほど』なのか。

コートを脱いで鞄と一緒に空いているスツールに置き、店内をぐるりと見回す彼。

「保科さんて昔なにやってた人?」

唐突な質問。でもそこまでは訊いていないから知ってることだけ。

「脱サラしてこのお店を継いだって言ってましたから。普通の会社員だったんだと思いますけど・・・」

「普通ってレベルじゃないよな、あれは」

どこか不敵な笑みが覗いた。

「まあでも相手に不足はない・・・か」

「・・・ゲームじゃないんですから」

闘争心を燃やす子供みたいにも思えて。私は軽く横目で睨め付けた。

「遊んでるように見えるか?」

不意の男っぽい真顔。心臓がきゅっと鷲掴みにされた感覚を、無理やり自分の中から追い出そ
うと、とにかく拒む言葉を口にしようとした。

「あの・・・私は」

「なんか久々に火が点いた」

それを冷静な声で遮り羽鳥さんは、負け惜しみじゃない、と口角を上げて見せる。

「本気出して駄目でも・・・まあ保科さんならお前を譲れるかな」
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