セルロイド・ラヴァ‘S
「・・・僕の睦月は男の趣味が良いね」

ふっと笑みを零し、愁一さんは私に向かい柔らかな眼差しを投げかけた。意味を捉えかねて瞬きをすると。

「睦月は彼とどうしたいの?」

・・・更に意味が分からなくなる。

「・・・愁一さん。私は羽鳥さんとは・・・どうするつもりも」

俯かせ気味に逸れてしまった視線。言葉とは裏腹のやましさを彼が見抜かないはずも無いのに。

「そうだね。・・・君はそう言うだろう」

気配を感じて顔を上げる。そこにはふわりと薫るような、甘やかな微笑みが待っていた。私は惚けたように魅入られて。思考すら奪われて彼に囚われる。

「・・・僕は睦月を手放しはしないよ、もう君は僕のものだから。それはこの先もずっと変わらずにね」

声に躰の芯から絡めとられてく。

「でも僕は睦月の自由を奪うつもりも無い。・・・君が逢いたいなら止めはしない。彼に抱かれたいなら抱かれていい。君の気が済むように」

どこか遠くで聴いてるかのようにぼやけて耳に反響する、深くて静かな声に。

「だからと言って僕が他の誰かを抱いたりは決して無いし、これからも抱きたい時に好きなだけ睦月を抱く。・・・君が拒んだ時が僕達の終わりだ」 

目の前で優しく微笑むのは。一体・・・誰。真っ白になりそうな頭を必死で働かせて。現実と正気を保とうと懸命に藻掻く。
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