セルロイド・ラヴァ‘S
「・・・25日、ですか?」

『そう。5、6って俺もお前も連休だろ?一日ぐらい付き合えよ』

ときどき遠慮が無くなる羽鳥さんから電話があったのは前の週の土曜の夜。翌週の火曜水曜が、クリスマスが掛かった連休になるのを誘われたのだ。
 
晩ご飯も済みソファで愁一さんと寛いでいた最中(さなか)。テーブルの上で突如、着信音を鳴らし始めた私のスマホ画面を一瞥した愁一さんは。相手が誰かを分かっていて「出ないの?」と、にっこり笑う。そして私の腰に腕を回してしっかりと自分に引き寄せ、ここで話せともう一度、無言の笑顔で圧を掛けた。 

「えぇと、あの・・・検討して折り返しラインで・・・」

『ああ、保科さん?傍にいるの?』

歯切れが悪い私に事も無げに羽鳥さんが言う。

『何なら代わってくれていいけど?俺が交渉するし』 

・・・どこにそんな人がいます?他人の恋人にデートの折衝とか。思わず絶句していると。私の耳元からするりとスマホが抜き取られ、声を出す隙もなく愁一さんの耳元にそれは在る。

「・・・ッ、しゅ、」

思わず小さく叫び声を上げかけて、腰に回ってた手が私の口をやんわり塞いだ。

「こんばんは羽鳥君。君みたいに骨のある子は嫌いじゃないよ僕は」

『それはどうも。俺も嬉しいですね、保科さんみたいな人に褒めてもらえて』
  
愁一さんは左腕で私を逃がさず、聴かせるようにわざと右手を交差させるようにして持ったスマホを左耳に当てていた。

「僕みたいなってどういう人?」

『昔(もと)は営業畑の人間でしょう保科さんも。それも多分かなり大手の。やっぱり匂いで分かります同類だなって』

「まあ当たらずとも遠からずって言っておこうか。別に隠す訳じゃないけど、そういう話は君のいないところで睦月とするから」

クスリ、と横目が私を悪戯気に捉えた。

「・・・それより彼女を誘うのは止めやしないけど、門限までには送り届けてくれるかな?」

『門限ですか』

向こうから苦笑いの気配。・・・私も初耳。目が丸になった。
愁一さんは口角を上げ不敵そうに笑んで言う。

「僕の大事なお姫様を12時までに帰すように。・・・1秒でも遅れたら2度と会わせないからそのつもりで」
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