セルロイド・ラヴァ‘S
その瞬間の愁一さんが纏っていた空気感。羽鳥さんには伝わっただろうか。命令することに慣れた上に立つ立場の人間特有の。

じっと見つめてしまうと、淡い微笑みを浮かべ私の口を解放してくれた。そのまま肩を抱き寄せられる。

『時間の30分前が営業の基本なんで。厳守させてもらいます』

羽鳥さんからも涼しい声が返って。近くなったらまた連絡する、と最後だけ私と会話し通話が終わった。

なんかもう、愁一さんと羽鳥さんで直接やり取りしたらいいんじゃないかと大真面目に思う。内心で深々と溜息を吐き。よくよく考えたら、私は一言も行くって意思表示していないのに、2人の間で行くことに決まってるって。・・・そもそも羽鳥さんの誘いを断れる自信も無かったけれど。2度目の溜め息。

「相変わらず抜け目のない子だね羽鳥君は」

私を見下ろし、さっきから笑みを零したまま愉しんでいるようにしか見えない彼。

「僕はクリスマスもお正月も拘りのない人間だけど、睦月を独り占めされるのはやっぱり癪(しゃく)に障るかな」

不意に視界が遮られる。キスが落ちて、ソファの背もたれに頭の後ろを押し付けられるように徐々に激しく貪られてく。両方の手首を取られ身動きが出来ない私の口の中を無尽蔵に味わい尽くして、ようやく放すと。一瞬細まった眼差しにはどこか企みを隠した妖しさが熟んでいた。




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