セルロイド・ラヴァ‘S
「たまには、夜のドライブも悪くないかな」

 運転席で愁一さんは、普段よりもしっとりと淡く笑む。
 横顔がすごく大人に見えて。心臓が落ち着かない。恋人って立ち位置にあ
るのに、未だ青天井だ。恋ゴコロ、・・・みたいなものが。

 お店に立つ時の正装も、あれはあれで見惚れてしまうのに。スーツがこん
なに似合うなんて反則もいいところ。・・・モテたわよね、余るほど。
 遠慮なしに見とれていたら、苦笑いされた。

「・・・そろそろ僕の顔に穴が空きそうだよ、睦月」

「逆にどうしたら見飽きるのか、教えて欲しいくらい」

「飽きられても困るけど」

 クスクスと笑い合う。 

「睦月を見ちゃうと、ついキスしたくなるでしょう。だから僕は我慢して
るのに」

「じゃあ・・・頑張ってね?、我慢大会」

 わざと意地悪風に笑って見せれば。待ち構えていたように、愉しげに彼の
口角が上がる。

「そういう狡い子は、あとでお仕置きかな」


 すれ違う車のヘッドライトの光に、愁一さんの端正な横顔が浮き彫りにな
っては、翳る。繰り返し。
 信号待ちの交差点で。こっちを向いた眸には、煽情的な色が滲んで見えた。
 伸びてきた腕に頭の後ろを掴まえられて、キスが落ちる。
 口紅、移っちゃう・・・。
 
 信号待ちの度にそうなったから。着くまでに、何か別のモノで胸がいっぱ
いになりそうな。・・・どこにいても私たちには。艶めく夜。



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