セルロイド・ラヴァ‘S
一時間ほどのドライブも・・・何だか早く家に帰りたくなるような、このまま愁一さんの隣りにずっといたいような。

連れて行ってくれたのはビストロと名のついたフレンチのお店。割りと名の知れた駅の近くで、敷居が高そうなお店構えだったけれど。愁一さんにエスコートされて足を踏み入れれば雰囲気は明るく和やかで、イヴらしく男女の連れが目立って見えた。

何より挨拶してくれたお店のオーナーが、愁一さんの学生時代からの友人だと紹介されて。驚いたのと恥ずかしくなったのと嬉しかったのと。タキシードに身を包んだ前島さんという人は少しぽっちゃり体型で、確かに美味しいものが好きそうな印象だった。

「しばらく付き合いが悪いと思ったら、急にイヴに可愛らしいお嬢さんを連れて来るんですから。ところどころ面倒な奴ですが仲良くしてやって下さい」

周囲に気遣ってか声を潜め、けれど含みはない清々しい笑顔で。今度は3人で食事でも、と社交辞令じゃないことを強調して席を離れて行った。

「たまには私を置いて出かけてもいいのに」

高級和牛のフィレ肉、何とかソース添えを堪能しながらクスリと笑んだら。

「そんな勿体ないこと僕はしないよ」

意味深な笑顔でにっこりと即却下された。

デザートに出されたパッションフルーツのシャーベットもさっぱりとした口溶けで。思ったほど肩も凝らず、ゆっくりと優雅なひと時を楽しめた。クリスマスだから・・・で片付けてしまえればもっと単純なのだけど。

大人は簡単なパズルを難しく組み変えてしまう厄介なコドモ。羽鳥さんていうピースを愁一さんは一体どこにどう嵌めてくつもりなのか。前島さんの言う『ところどころ面倒』ってこういうこと?内心で零れた笑みには、苦いものも綯い交ぜ(ないまぜ)になっていた。
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