セルロイド・ラヴァ‘S
気付いた時には後の祭り、大介さんの思う壺。悪魔がしたり顔で爽やかにほくそ笑んでる。ようにしか見えない。・・・・・・やられたわ。さくさくとベルトの長さを合わせ商品を手にレジに向かった店員さんと、大介さんの後ろ姿に深々と溜息。最初から、私が自分で欲しがっていてもそうでなくても腕時計を買うつもりだった?

お店の中で店員やお客の目も気にせず、意固地に大介さんの好意を拒むなんて真似ができるぐらいならそうしてる。私を読み方を間違ってない彼の計算勝ち。

結局クリスマスプレゼントにされてしまった新しい時計を嵌めることにして、手にしてる小さなショップバッグの中身は愛用していた方。

『ありがとうございました』

満面の笑顔で見送りをしてくれる店員さんに曖昧な愛想笑いで返し。そこを出てから大介さんを見上げて無言の抗議。すると彼は悪びれもなく「こうでもしないと絶対に俺から受け取らないだろ」とにんまりする。

「・・・買っていただいたものは大事にしますし嬉しいですけど。もう二度と通用しないですよ?」

眉根を寄せわざと敬語に戻して私は言った。

「怒るなよ。睦月に俺の“名札”、付けときたいだけ」 

大介さんは口の端で仄かに笑んだけれど。目の奥にはもっと剛(つよ)くて固い何かが宿って見えた。

「これから増やしてくつもりだから悪しからず」



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