セルロイド・ラヴァ‘S
約束通り、門限にはまだ余裕がある頃に大介さんはしっかりと戻った。私もラインで愁一さんにだいたいの到着時間は知らせておいた。
お店よりかなり手前の広めの路地で。大介さんはハザードランプを点灯させ、車を路肩に停めた。こっちに向き直って私の頭の後ろをやんわりと掴まえると、額をくっつけ合って言う。
「・・・遅くなったけど。メリークリスマス」
何だかとても。長い一日だったようにも思えた。未だに心臓が落ち着かないような心持ちもする。後になって記憶が自動的に再生されそうな聖夜になることは間違いない。
私も淡く笑んで同じように返す。大介さんはキスを交わしてから真っ直ぐ私を見つめて、ふっと笑った。
「お前とならさ。結果がどうでも後悔なんか無いって思えるから不思議だな」
間もなく車は静かにお店の前に停車した。ウィンドゥ越しに薄暗闇の中に佇む愁一さんの姿が目に映った。街灯の灯りに陰って表情までは窺えない。こんな冷たい夜気の中をいつから。たまらない思いでドアを開け小さく駆け寄る。
「愁一さん・・・!」
「おかえり、睦月」
柔らかい微笑みと、ブルゾンジャンパーの少しごわついた腕が私を迎えてくれた。運転席から降りてきた大介さんにも同じように微笑みかける。
「僕の睦月を無事に返してくれてありがとう」
「礼を言われるようなことはしてませんよ」
少しだけ挑発的な気配を乗せて。大介さんは口角を上げて見せた。
「彼女を諦めた訳じゃないですし、仕切り直してまたうかがいます。・・・同じ土俵には立たせてもらえましたしね」
「そう。・・・でも睦月を困らせるようなら僕は徹底的に君を排除するから。肝に銘じておきなさい」
最後まで愁一さんは笑みを崩さず。見えない鞭を音もたてずに大介さんの鼻先目がけて振るった。
私は今日一日のお礼を言い、彼を見送って愁一さんと家に入る。
「着替えておいで。珈琲、淹れておくよ」
「うん。・・・ありがと」
キッチンに向かうすらりとした背中を見つめながら。嵐の前の静けさってこういうものかも知れない、と胸の内で大きく一つ呼吸を整えたのだった。
お店よりかなり手前の広めの路地で。大介さんはハザードランプを点灯させ、車を路肩に停めた。こっちに向き直って私の頭の後ろをやんわりと掴まえると、額をくっつけ合って言う。
「・・・遅くなったけど。メリークリスマス」
何だかとても。長い一日だったようにも思えた。未だに心臓が落ち着かないような心持ちもする。後になって記憶が自動的に再生されそうな聖夜になることは間違いない。
私も淡く笑んで同じように返す。大介さんはキスを交わしてから真っ直ぐ私を見つめて、ふっと笑った。
「お前とならさ。結果がどうでも後悔なんか無いって思えるから不思議だな」
間もなく車は静かにお店の前に停車した。ウィンドゥ越しに薄暗闇の中に佇む愁一さんの姿が目に映った。街灯の灯りに陰って表情までは窺えない。こんな冷たい夜気の中をいつから。たまらない思いでドアを開け小さく駆け寄る。
「愁一さん・・・!」
「おかえり、睦月」
柔らかい微笑みと、ブルゾンジャンパーの少しごわついた腕が私を迎えてくれた。運転席から降りてきた大介さんにも同じように微笑みかける。
「僕の睦月を無事に返してくれてありがとう」
「礼を言われるようなことはしてませんよ」
少しだけ挑発的な気配を乗せて。大介さんは口角を上げて見せた。
「彼女を諦めた訳じゃないですし、仕切り直してまたうかがいます。・・・同じ土俵には立たせてもらえましたしね」
「そう。・・・でも睦月を困らせるようなら僕は徹底的に君を排除するから。肝に銘じておきなさい」
最後まで愁一さんは笑みを崩さず。見えない鞭を音もたてずに大介さんの鼻先目がけて振るった。
私は今日一日のお礼を言い、彼を見送って愁一さんと家に入る。
「着替えておいで。珈琲、淹れておくよ」
「うん。・・・ありがと」
キッチンに向かうすらりとした背中を見つめながら。嵐の前の静けさってこういうものかも知れない、と胸の内で大きく一つ呼吸を整えたのだった。