セルロイド・ラヴァ‘S
ワンピースタイプの部屋着に着替え、リビングで愁一さんが淹れてくれたカフェオレにほっと一息吐く。クリーミーだけど大人の味。苦すぎず甘すぎず。彼そのもの。
 
「・・・今日は楽しかった?」

ソファに隣り合って座り、愁一さんは口を付けたカップをテーブルに置くとこっちを見やって淡く笑んだ。

私もカップを戻し少し向き直って見上げる。きっともう愁一さんは察している。僅かに躰が強張った。許容されているからと言って恋人以外の男性に抱かれたのだから。何もかもを無視していい理由にはならない。

膝の上できゅっと両指を握りしめ、俯き加減に視線を落として喉から声を振り絞った。

「・・・・・・愁一さん。話があって」
 
「いいよ。言ってごらん、ちゃんと聴くから」
 
いつもと変わらない穏やかな声音。不意に頬に大きな掌が触れ、そのまま顎の下に滑って私を上に向かせた。

見惚れるくらい綺麗に整った彼の表情は慈悲深いのか無慈悲なのか、まるで読み取れもしない。却ってそれが私の心臓を鷲掴んで竦ませた。居たたまれなさに目を伏せ、吐き出すように思い切る。

「・・・・・・大介さんと、・・・ホテルに行ったの」

彼の応(いら)えは無く。更なる弁明を余儀なくされる。裁きの場に引き出された囚人のごとく。 

「・・・気持ちには応えられないって思ったから、最後のつもりでそうしたの・・・」

言葉を必死に探して連ねる。到底まともに彼の目を見ることなんて出来やしない。まだ顎を捕らえられたまま声を微かに震わせて。

「でも終わりに出来なくて・・・。・・・・・・ごめんなさい」

大介さんに抱かれたことを後悔してはいないけれど。『ごめんなさい』は愁一さんへの贖罪でしかなかった。

こんなこと普通はどうあっても赦されない。本心では?もしかしたら本当は試されてた?不実な女だと軽蔑してる?

ちがうの。彼はチガウ。愛してるのは貴方だけなの。愁一さんだけでいいの。イヤ。貴方を失うくらいなら私は・・・!

自分で口にした途端、激しく苛まれる。急に怖くなって心細くて苦しくて、大きく顔が歪んだ。
次の瞬間には縋りつくように涙を零していた。

「・・・おねがい、嫌いにならないで・・・っっ・・・」
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