くるみさんの不運な一日
逃げないって返事はしてないのに、天川智明は腕の力をフッと緩める。


それはある意味チャンスはチャンスで、逃げようと思えば逃げられたかもしれない。


途中で追い付かれる可能性はあっても、とりあえず今この腕の中からは逃げられたかもしれない。


――でも、逃げたくなかった。


心地好かった。


あの時のように。


抱かれたあの時のように、肌が吸い付くような、引き合うような、その感触が心地好かった。


そんなフワフワとした感覚に、どっぷりはまり込むあたしに、


「水戸さんは、ちょっとすっ呆けてるとこあるよな」
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