イミテーションラブ
仕事にキリをつけて、今日は早めに家に帰ろうとエレベーターのボタンを押して待つ。
やってきたエレベーターに乗って1階のエントランスへと移動した。
吹き抜けになっている広いフロアは音が響きわたる。
前方から出先から戻ってきた広瀬さんが見えた。
声をかけようと思って近寄ろうとしたら、広瀬さんの前に二人組みの見覚えのある顔が見えた。今日の午前中に上の階で広瀬と共に冷やかされていた女の人…
意図してるわけではないのに、二人の話がクリアに聞こえてきてしまった。
「…よかったね、付き合ってるんでしょ?」
「…もう内緒なんだから…小さい声でね…その内に皆んなにも伝えるから…」
嬉しそうに頬を赤らめて話している二人…
聞きたくないのに耳に入ってしまって、その直後、私の顔が強張った。
…付き合ってる…誰と?
昼間の会話を思い出す。
私じゃない人に好きと言ってた田崎。

…それだけで十分だった。

…私じゃなかった

気がついたら目頭が熱くなっていた。
あんな奴の為に泣きたくないけど、待ち構えたかのように涙が溢れそうになって、隠すように下を向いた。

「城山?」
私の存在に気がついた広瀬さんが、下を向いてる私を変に思ったのか声をかけてくれた。
「…どうした、英里奈呼ぼうか?」

優しい先輩だ。
首を横に振って大丈夫ですと伝えた。
「じゃあ、落ち着くまでこっちに座って」
自販機のある場所に行き、その前にある椅子に座らせてくれた。
「英里奈呼ぶから待ってて」
携帯で連絡をとってくれたようだ。

英里奈先輩がくるまで付き添ってくれるのか、何か飲むかと気遣ってくれた。




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